生涯価値と知人紹介の指標 ―日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」11/12号
2017/11/20
日本のマーケティングは遅れているといわれるが、
そんなレッテルは、すぐになくなるだろう。
先日、米国のマーケティングオートメーション(MA)の大手、
マルケトが日本でイベントを開いたところ、3200人もの申し込みがあった。
それは世界第2位の規模だったという。
MAとは顧客獲得プロセスのすべてを数値化し、継続的に改善していくマーケティング手法。
私は20年前から提唱してきたのだが、それがここ最近、浸透・実現してきた。
MAを実践すると、見込み客の開拓、新規客の獲得からリピート客への育成までの道筋が整備され、
その結果、未来に向け事業成長を一気に加速させられる。
成長をデザインするうえで鍵となるのが「LTV」(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)。
一人の顧客が、生涯で一つの会社に使う総額のことだ。
1回の購入額が3000円でも1年間顧客であり続ければ、総額6万円になり、
顧客1人当たり数万円の広告費を投じても元がとれる。
その好例がソフトバンクだ。創業以来、コア事業が変遷してきたが、
2001年に始めた「ヤフーBB」のADSL事業からマーケティング戦略が明快になった。
モデムの無料配布を覚えている人は多いだろう。
LTVをつかんで、継続収入を生み出すビジネスモデルに一気にシフトしたのである。
この成功を機に、以後のモバイル事業や「ペッパー」ロボット事業、
あらゆるモノがネットにつながるIoT事業は同じ戦略を貫いている。
最近では、LTVに加え、「K-FACTOR」にも着目する企業が増えてきた。
わかりやすく言えば、紹介を広げるための指標だ。
たとえば、紹介キャンペーンで10人紹介されたうち、2名が成約すれば、K=0.2となる。
この指標を把握すると、顧客に対する行動が180度変わる。
例えば、私はある自然食品を愛用し、ユーザーを何人も紹介していたところ、
その会社は私に、サンプル品を常に送るようになった。
アクティブに紹介する人を見極め、紹介しやすいようにしているのである。
ところが同業種の社長は「紹介キャンペーンをしても全く効果がない」と信じて疑わない。
数値で把握していないので、私のような「ヘビー紹介客」の存在が見えないのだろう。
LTVとK-FACTORを把握すれば、増収が予測可能になるので、
成長のための積極的投資が可能になる。
そこで1年に向かうにあたり、売り上げ計画を思い切って引き上げてみないか?
日本の先端技術や先端サービスが、MAを取り入れ、マーケティングモデルを構築すれば、
成長への突破口が開けるので、未来は一気に明るくなる。
顧客の生涯価値の大切さを知っていても、その数値を把握している会社は、まだ少ない。
ほんの数時間さえかければ、どんな会社でもできる、簡単な作業にもかかわらずだ。
この国には成長のための、マーケティングマインドをもった人材は十分に存在する。
もし足りないものがあれば、それは私たちの意志と誇りである。