がん時代、経営者の心構え ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/1/27号

2020/2/3

身近な人ががんになったと言っても最近はあまり驚かなくなっている。
もはやがんになることが珍しくないからだ。

日本人は一生のうち、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなるといわれている。

わずか尿一滴で、進行がんどころか、早期がんまで95.8%の精度で診断できる、
というベンチャー企業も出始めているように、近年は診断技術が格段に上がっている。

早期発見であれば、不治の病ではなくなってきているので、それほど深刻にとらえない向きもあるだろう。

一方で「がん難民」になっている人も少なくない。

がん難民とは「医師による治療説明に不満足だった、または納得できる治療方針を選択できなかった」人のことで、
日本医療政策機構の調査によると、がん患者の53%がその状態だという。

2人に1人が罹患(りかん)する病気なのに、これだけ多くの人が「難民」の状態になるのは異常だ。

世の中には、自力でがん難民を乗り越えてしまう人もいる。
先日、「How to Starve Cancer(がんを飢えさせる方法)」という本を読んだ。

この本は、30歳で子宮頸(けい)がんにかかった後、ステージ4の肺がんになり、
余命3カ月と宣告された英国の理学療法士が書いた本だ。

余命宣告をされてから彼女はありとあらゆる医療系の論文やリポートなどを読みあさり、
代謝が通常細胞とは異なるがん細胞をどうしたら縮小・消滅させることができるかという道筋を模索。

薬局で手に入る薬を使うことで「がんに栄養分を与えずに済むのではないか」と考え、
自分でリスクを負って治験を開始した。

その結果、がんを克服。
17年たっても元気に生きており、普通の家庭をもっているという。

私も9年前に、悪性黒色腫と診断されたことがあり、最先端の治療法から代替療法まで、
さまざまな情報に関心を払ってきたので、著者には驚かされたが、ここまでできる人はなかなかいない。

医療従事者が患者から学び、患者も医療や病状について学ぶべきという「患者学」の観点から、
医療関係者にも知ってほしい。翻訳が待たれる本だ。

がんとどう向き合うかは、経営者にとっても重要な問題だ。

手がけるビジネスには直結しないかもしれないが、
従業員ががんにかかり、長期休養に入ることはごく普通に起こり得ること。

従業員の健康を守ることは、事業を存続させる上でも、非常に大切だ。

そのリスクにいち早く取り組み始めたのが、富士通だ。
今年1月から、7万人の従業員を対象に、がん教育をおこないはじめた。

東京大学医学部附属病院放射線科の中川恵一准教授による、
「がん予防と、治療と仕事の両立支援」をテーマとした講義とeラーニングをおこなうという。

人生100年時代といわれる令和時代。
「医の基本は予防にあり」との信念をもっていた北里柴三郎が新紙幣の顔になるのは偶然ではないだろう。

健康で文化的な生活を送るため、また会社を存続させるため、予防医学に本腰を入れる時代になったのは間違いない。

 

 

実学M.B.A.
いまなら初月500円でお試しいただけます。
詳しくはこちら



MAIL MAGAZINE・SNS
メルマガ・ソーシャルメディア


メルマガ一覧を見る