インフル遠隔診療への期待 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/6/1号
2020/6/8
コロナ禍をきっかけに成長が期待できるのは医療分野だ。
とくに遠隔医療は、その必要性を誰もが認識するようになった。
厚生労働省も、時限的・特例的だが、電話やオンライン診療システムなどを使った初診を、
新型コロナの感染拡大を防ぐために解禁した。
これをきっかけに法的整備が進み、遠隔診療用の医療機器が増えれば、
医療現場が患者の家まで近づくことになり、今までの医療に大変革を引き起こすのは間違いない。
たとえばインフルエンザの疑いがあった場合、無理して病院に行くのではなく、
自宅で口の中をカメラで撮影し、その画像を送信。薬を送ってもらえれば、患者にも医師にも良い話だ。
それを実現しようと動き出した会社が、アイリスというベンチャー企業だ。
すでに18.7億円を調達し注目を集める。
開発したのは「インフルエンザのAI診断」だ。
通常、インフルエンザの検査は鼻の奥に綿棒を入れて行うが、痛い上に感度は7割程度と高くない。
それに対し「無痛で精度も高い」と期待されているのが、
2013年に論文が発表された喉にできるインフルエンザの濾胞(ろほう)を視診で診断する方法だ。
精度は感度、特異度ともに90%台後半だ。
ただ、その道を極めた「匠の医師」にしか濾胞を見極められないのが難点だった。
そこで同社は喉の写真を撮影し、濾胞の形や全体の赤みなどをAIで解析。
その場でインフルエンザの陽性判定ができる技術を開発した。
喉の画像データを20万枚以上集め、AIに学習させている。
このレベルの喉の画像データを持つ会社は世界を見回してもない。
現状はスマホでは撮影できないが、ちくわのような形の内視鏡カメラを口に入れて撮影し、
AIが読み取りやすい画像を撮れる。
治験や医療機器承認を経て、今年度中の実用化を目指している。
いま医療ベンチャーは大きくわけて、医薬品開発の「バイオ」分野と
医薬品以外の「ヘルスケア」分野の2種類がある。
比較的、参入可能性があるのはヘルスケア分野だ。
遠隔診療はそのひとつで、さらにテレラジオロジー(遠隔放射線医学)、
テレカーディオロジー(遠隔循環器学)、テレサイキアトリー(遠隔精神医学)、
テレダーマトロジー(遠隔皮膚科学)などいろいろなフィールドが広がっている。
ただ医師で厚労省の医系技官の経歴を持つ、アイリスの加藤浩晃副社長によれば、
「確かにポテンシャルは巨大だが、『あったらいいな』と現場で思いつくだけでは難しい」と話す。
アイデアや技術はあっても、法律にのっとって医療機器としての認可が下りないと
スタートラインにも立てない。
「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を押さえて始めて、ヘルスケアビジネスは形になるという。
もっとも日本は医療の信頼性が高いため、日本で医療機器の認可が下りると全世界に広げることができるという。
日本には技術もあるし、優秀な医師も多い。
そうした医療現場と医療制度とビジネスをつなぐ、ほんの少しの知識を持った人が増えれば、
日本発医療ベンチャーを阻む壁は、意外に低いかもしれない。
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