米オンラインフィットネス急成長 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/6/14号
2020/6/22
「3密」が懸念されてきたフィットネス。
新型コロナウイルスの影響で、どこも業績は苦戦していると思うのが当然だ。
しかしロックダウン中でも、米国で急成長しているフィットネスの会社がある。
「次世代のアップルになるのでは」と注目される「PELOTON(ペロトン)」だ。
ビジネスモデルはあらゆる面で完成されている。
まず、顧客は2000ドル程度で、大型画面付きのエアロバイクやトレッドミルを購入する。
それを使って家でカリスマインストラクターのレッスンを、
月39ドルのサブスクリプション(定期契約)で受けられるのだ。
エクササイズのメニューはウエートトレーニングやストレッチ、ブートキャンプ、ヨガ、瞑想(めいそう)など
フィットネス施設で提供されるものがほぼある。
1カ月にリリースされる独自プログラムは950もある。
家族全員が月39ドルでスマホやタブレットでこれらを受けられるのだから、非常にリーズナブルだ。
オンラインレッスンが受けられるだけでも優れたサービスだが、人気の理由はそれだけではない。
それはダイエットや体づくり以外の価値を提供していることだ。
例えば「精神修養」。日曜午後の人気プログラムはアディダスのグローバルアンバサダーで、
フィットネス界のセレブ、アリーラブ女史が行う「ラブ女史とともに過ごす日曜日(SUNDAY WITH LOVE)」。
「教会の儀式」に近いと評する人も多い。敬虔(けいけん)なクリスチャンが日曜日に教会に行くように、
教会に行かない人たちが肉体の限界を超え、精神を修養するからだ。ダイエットより神聖な活動といえる。
「エンターテインメント」としての価値も大きい。
通常、フィットネスは、独自メソッドや技術を強調するが、ペロトンはインストラクターという「スター」を強調する。
サイトを見ると、彫刻のような肉体美を持ったカリスマたちの魅力を前面に押し出している。
彼らは受講生に笑顔で話しかけ、モチベーションを刺激しながら、一緒にエクササイズをしてくれる。
受講生にとってはそのひととき自体が楽しみだ。受講生はTVを見るように、次々とお好みのプログラムを探す。
さらに「仲間を探せる」という価値もある。
コミュニティー機能が用意され、好きな運動や趣味などの共通点からバディを見つけ、一緒に運動しながら交流を楽しめる。
つまり、ペロトンは自宅にいながら、あらゆる価値を提供してくれる。
ロックダウンによる一時的なブーム。そうとらえる人も多いだろうが、定期契約数は2018年に前年比128%、
19年は108%とコロナ前から大幅に伸びた。コロナ後は家で過ごす時間が増え、さらに伸びるだろう。
「コロナ前に早く戻ればいいのに」と考える人は多い。
しかし、過去の市場は縮小する。過去と同じ売上高が上がると思うのは、はかない夢だ。
むしろコロナを機に未来へと向かうスピードを加速するのが正解だ。
少なくとも経営者が「元に戻ればいいのに」と考えるようなら、引退したほうがいい。
そんな経営者の目を覚ます上で、ペロトンは格好の事例だろう。
実学M.B.A.
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