コロナ禍、急成長する花屋 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/6/29号
2020/7/6
コロナ禍で業績が伸びている意外な会社が、米国にある。
それは「花屋」だと聞くと、驚くのではないだろうか?
その花屋は「1-800 Flowers」だ。
コロナの影響で小売業はどこも惨憺(さんたん)たる状況だが、
同社は、今年1~3月の第3四半期の売上高は、前年度2億4840万ドルから2億7780万ドルへと急伸している。
1-800 Flowersはもともと40年以上前に開業したアナログな花屋だ。
ネット販売を始めると「記念日にギフトを送る」ニーズに応えようと、利便性をとことんつきつめた。
それがコロナで分断された人々のストレスを和らげ、絆を確かめ合うひとときを生み、全米のユーザーをつかんだ。
ウェブサイトをみると、1-800 Flowersはもはや花屋の域を超えている。
「ウォルファーマンズ・ベーカリー」というパン店、「ザ・ポップコーンファクトリー」という菓子店、
そして「ハリーアンドデイヴィッド」という果物店などの専門サイトを多数展開。
花と食品の総合通信販売業といってもいい。
アマゾンがプライムで顧客を囲い込んだように、1-800 Flowersには、
「セレブレーション・パスポート」という年間19.99ドルの会員制度がある。
送料無料が目玉で、当日配送やギフトの贈り先名簿を管理して一斉配送できるサービスもある。
ギフト業界ではアマゾンに匹敵すると言ってもいいだろう。
デジタル戦略も巧みだ。
日本では専門サイトを一つのカタログサイトにまとめるところだが、あえて目的別に分けた。
デジタルでは、単品事業のほうが圧倒的に伸びやすいとの考えからだ。
目的別だと検索時に上位にあがりやすく、新規顧客も集めやすい。
また新規顧客の獲得からリピート購買まで、直線的なプロセスを設計できる。
必要なタイミングで必要なものを効率よく買える仕組みを整えられる。
さらに分野別にした方が、デジタル変革に遅れた既存業界の企業を買収しやすく、成長モデルをつくりやすい。
実際、1-800 Flowersは昨年も、シャリズ・ベリーという菓子店を買収している。
多様な専門サイトを用意したことで、生年月日や記念日などのデータを集積・分析でき、
さまざまな角度からユーザーにアプローチできるようになった。
花だけの時よりも、予測できる売上高をあげやすくなった。
花屋という業態はこれまで、店舗がなければ成立しなかった業態だ。
だが1-800 Flowersのような成長事例を見ると、アフターコロナの時代はどの業種も店舗がない前提で、
事業を再構築するほどの発想の転換が必要だ。
今やクリーニング店もメガネ店もアパレルショップも、さらには住宅展示場もリモート接客の時代だ。
実店舗を持つならば、「なぜ、わざわざ店に足を運ばなければならないのか?」を真剣に考えるべきだろう。
その上でデジタル技術の本質を捉えた戦略を打ち出せば、
伝統的な企業でも1-800 Flowersのように新しい成長を創出できるのだ。
実学M.B.A.
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