コロナで脚光、地元生活経済圏 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/7/27号

2020/8/3

「不思議なことが起こりましてねえ」
先日、ひいきにしている、郊外の小さなメガネ店で聞いた話である。

「不思議なこと」とは緊急事態宣言発令後の6月に、開店以来最高の売り上げを記録したことだ。
この間、お客がひっきりなしに訪れたという。

もともとこの店は入手困難なフレームやアンティークのフレームをそろえ、
メガネ好きが喜ぶ店だが、なぜ6月に客が急増したのか。

それは都心に買い物に行っていた地元の人が、近場で楽しめることをネットで調べ、
「面白いメガネ店がこんな近所にあるのか」と気づいたからだ。

噂が広まり、緊急事態宣言の解除後は遠隔地からもお客が訪れるようになったという。

ある地方都市の小さな飲食店でも、似たようなことが起きた。

緊急事態宣言の発令後、料理に使っていた野菜を店頭に並べ、
生産者の名前やこだわりをPOPに書いて販売したら、近所の人が次々と買っていったそうだ。

「こだわりの店がある」と評判を呼び、緊急事態宣言が解除された後も、お客がひっきりなしに。

これらが意味するのは、緊急事態宣言下の2カ月で、人々の消費行動が大きく変わったことだ。

にぎやかな中心部に出向くことなく、終日、地元で過ごすようになったことで、
「近くに面白い店はないだろうか?」と目を向け始めた。

その結果、冒頭のメガネ店や飲食店のような存在が気づかれやすくなった。
両店に共通するのが、好きな仕事に打ち込み、こだわりを仕事で表現していることだ。

なかなか伝わらなかった仕事ぶりを地元の人が発掘し、
SNSで発信したことで広く伝わり、お客がお客を呼ぶ状態になった。

こうした「地元に注目が集まる」流れはしばらく続くだろう。
パーソル総研の調査では、テレワークの継続を希望する正社員は約7割に上る。

もはやリモートワークの浸透は不可逆的。
大都市圏に通勤することなく、自宅で過ごす時間が引き続き多くなる。

すると、地元の人により地域の面白い店やものがますます発掘されるようになる。
それを契機に地域の歴史や偉人、民話などにも興味がわき、観光資源と組み合わせてSNSで発信することが起こるだろう。

要は地域生活経済圏が再発見され、新たに育つ環境が整ってきたのである。

地方創生の観点からすると、大チャンスだ。
実際、県内在住者を優遇する地元割クーポン券を配布する自治体も出始め、地域の宿泊施設や観光施設が見直され始めた。

地方自治体の長であれば腕まくりして働くべきタイミングだ。
新型コロナウイルスは、ワクチン開発に時間がかかると、収束まで2年は覚悟することになるだろう。

その2年は地元資源の発掘作業を行うのに最適な時間ともいえる。

そして地域の店舗は、こだわりのビジョンに向かってまい進すれば、地元の人に発掘されるチャンスがあるだろう。
これまでのようにひたすら待つのではなく、そのこだわりを発信していく。

変化できる会社はコロナ収束後も生き残れるし、地域の未来をつくる担い手となり得る。

 

 

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