副業解禁の功罪 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/10/5号

2020/10/12

米国一流大学卒で、英語・中国語に堪能な金融プロフェッショナル。
大手IT企業の創業当初から成長を担ってきたベテラン広報部長。
先進的なベンチャーや伝統的な商社でキャリアを積んだ起業家……。

目をみはる高学歴・高スペックの人材が、私のもとに急速に集まりはじめた。
副業人材の採用に力をいれ始めたからだ。

今、大企業や有力企業の有能な人材が、社外に活躍の場を探し始めている。
政府の副業解禁に加え、コロナ禍でリモート環境に移行したのが、その理由だ。

今まで優秀な人材を採用できなかった中小ベンチャー企業にとっては、優秀な副業人材を雇うチャンスだ。

私の知り合いの企業は、あるユニコーン企業のマーケッターを一人雇ったら、
そのチーム全体が副業をしてくれるようになったという。

しかも直接競合しなければ本業の顧客を紹介しても構わない、と本社から言われているそうだ。
情報や技術の漏洩に厳しいアメリカ企業ではありえないがその点、日本企業は寛容だ。

米国モデルが創造的管理だとしたら、日本モデルは破壊的自由といえるだろう。

副業禁止の米国企業と副業解禁の日本企業、どちらが成長力を失うかといえば後者かもしれない。
副業を解禁すれば、企業はバラバラに解体されるからだ。

ただすべての会社がそうではないだろう。
政府の狙いは大企業と中小ベンチャー企業が組み、ダイナミズムを起こすこと。

ビジョンのある大企業は、うまい形でベンチャーとダイナミズムを起こせるのではないか。

そうなれば日本では、世界でも珍しい労働モデルが生まれるかもしれない。

大企業は、給料を払って学ばせてあげる大学院のようなもので、
社員は企業に貢献しつつもインターンのような形で、中小ベンチャーに実習にでかける。

社員は本業で安定的インカムと教育を得ながら、リスキーだがやりがいのある中小ベンチャー企業で経験を積む。

大企業も中小ベンチャーもそれぞれ労働対価を得られるので、
大企業とベンチャー企業、働き手にメリットがあるわけだ。

正直、私は「二足のわらじで、キャリアなんて築けるはずがない」と思っていた。

しかし副業人材を面談した時に
「私は副業に割く時間を全体の30%と考え、まだ10%しか使っていないので全然余裕がある」という答えを聞き
実際に、巧みなスケジュール管理で仕事を両立しているさまを見て、考えを改めた。

これからは二足のわらじでキャリアを積む時代になるだろう。

中小ベンチャーがそんな人材を引き寄せるにはどうすればいいか。

彼らのような人材が喜んで働きたいと思うのはビジョンが面白く、
目標を達成するためのプロセスを完全に自由にできる会社だ。

いわばゲームのような仕事だ。
会社はやりがいのあるゲームのルールを決め、達成までの舞台を用意し、強烈な一体感や高揚感を提供することだ。

そう考えると、次の時代を爆発的に成長したい企業は、副業人材が夢中になれる冒険の舞台を創り出すことが不可欠だ。
ほとんどの企業はゲームシナリオの台本を書き直すべき時だ。

 

 

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