注目浴びた「クラブハウス」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/3/14号
2021/3/22
この1カ月、音声SNSのクラブハウスが急速に注目された。
「注目された」と過去形にしたのは理由がある。
クラブハウスの登場で、私はSNS活況時代の「終焉(しゅうえん)が始まった」と見ているからだ。
フェイスブックやツイッターなどのSNSが急成長を遂げた最大の理由は、
デジタル広告により顧客獲得が緻密に、数千円程度の少額からできるようになったからだ。
その結果、誰でも起業できるという社会変革を引き起こした。
しかし、このクラブハウスの登場は、SNSが成長期の終盤に入った合図だと考えている。
テレビCMが消えたわけではないように、もちろんSNSが消えるわけではない。
ただSNSが成熟期に近づき、プラス面よりもマイナス面が強調され始めた。
メールマーケティングが加速した結果、法規制がかかったのと同様に、SNSも社会的制約が入る可能性がある。
マイナス面とは何か?
それは「分断」だ。
世代間や収入別などの社会的分断が深刻化しているが、その要因のひとつにSNSの「つぶやき」がある。
アメリカでベストセラーになった「Chatter」という本によれば、
精神的安定性を保つには内面の声のコントロールが重要だという。
内面の声を言い換えれば、心のつぶやきだ。
通常、そのつぶやきはポジティブとネガティブがバランスを取り合う。
「自分は最高だ」と考えれば「そんなことはないし……」と自己ツッコミをするし、
「自分は落ちこぼれ……」となれば「いや、そんなことはない」とフォローする。
ところが、そのつぶやきがSNSで外に出た途端、大きな問題が起きた。
ネガティブの暴走がとまらなくなってしまったのだ。
「自分はこれだけキラキラ充実した人生を送っている」。自己アピールをしたい人はポジティブなつぶやきを繰り返す。
それを聞いた人は劣等感を抱え、「お前なんて大したことねえよ」と攻撃するようになる。
このネガティブスパイラルを加速させる要因が、
クラブハウスのコミュニケーション・ルールにあるのではないかと私は疑っている。
この点をはじめに指摘したのは、ある小学校の先生だった。
クラブハウスに参加し、かつてないほど自分がみじめに感じたという。
クラブハウスでは「俺たち選ばれし者が君たちに教えてあげる。ときどき俺らのステージに引き上げてあげる」
というように、より分断を広げる。
するとますます劣等感を刺激し、攻撃的な人を増やしてしまう。
さらに悪いのはアクセス数を稼ぐため、世にネガティブニュースが大量に流れていることだ。
結果、ネット全体がネガティブ思考のスパイラルに陥っていく。
急速に広がったブームは急速に終わるのが常だが、それはクラブハウスに限ったことではない。
今後、全てのSNSの功罪がクローズアップされるだろう。
そしてこれだけ本当のことがわからなくなると、人々は再びリアルの価値を発見することになるはずだ。
SNSの発信者は、表面的に見えるほど成功しているわけではないし、また幸福なわけでもない。
実学M.B.A.
いまなら初月無料でお試しいただけます。
詳しくはこちら