デジタル広告の勢力図 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/4/26号

2021/5/3

デジタル広告の勢力図が大きく変わり始めた。

これまではグーグルやフェイスブックが圧倒的な強さを誇っていて、デジタル広告の代名詞となっていたが、
最近は「DSP(デマンドサイドプラットフォーム)」が世界的に大きく伸びている。

DSPとは広告代理店向けにありとあらゆるデジタル広告枠を集めたプラットフォームのことだ。
2009年に米・カリフォルニアでスタートしたザ・トレードデスク社は代表的な1社だ。

DSPが成長している背景にあるのは、
グーグルの検索連動型広告やフェイスブック広告以外の広告が数多く生まれたことだ。

とくに成長しているのが、ネットフリックスを始めとしたコネクテッドTVの広告。
その他、アプリに表示される広告や、スポティファイをはじめとする音楽配信メディアで流される広告も伸びている。

これらの広告の登場により、今ではありとあらゆるコンテンツに広告をつけられるようになった。

当初は私も細かい広告枠を集めただけで成長余地は限られると考えていたが、
その予想を覆したのが、中国広告市場への進出である。

グーグルやフェイスブックは中国で活動していないが、トレードデスク社は19年に中国市場にも入り込んだ。
多国籍企業が中国で簡単に広告を打てるようにしたのだ。トレードデスク社は国際的な広告の勢力図も変えてしまった。

さらにDSPが成長した大きな理由は、広告の配信作業から効果測定までをAIが自動的におこなっていることだ。

「購買に至るまでにどの広告が効果的だったか」をAIが分析。
成約率が多い媒体を見つけ出し、そこに広告予算を自動で配分していく。だから効果が出るわけだ。

このAIによる自動配信によって、トレードデスク社は
「広告は多くのデジタルメディアへ自由にアクセスを可能にする『通貨』となった」と述べている。

自社商品の価値をわかりやすく広告に落とし込めば、あとはAIが最適なコンテンツに広告を出稿してくれ、
その奥にいるユーザーとつなげてくれる。

これはコンテンツ提供者やユーザーと価値を交換し合うようなものだから、「広告=通貨」というわけだ。
広告主にとってはとてつもないチャンスが広がっている。

その一方で、旧来の日本の広告代理店にとっては喜べない状況といえる。

TV広告の減少で大打撃を受けているが、
それでも広告予算をアナログとデジタルに振り分けるのは人間だったのでまだ良かった。

しかし、AIによる広告自動配信システムが進化した今、もはや広告マンが戦っている相手は人間ではない。
アルゴリズムだ。

もっとも、全メディアに最適な広告配分をするなどという芸当は人間には絶対にできない。
勝ち目がないのである。

人vs人から、人vsAIの戦いへ。旧来の広告代理店はその構造の変化を認識することが必要だ。
気づいたときにはAIを使うプラットフォーマーの上でかろうじて踊らせてもらうだけ……ということになりかねない。

 

 

実学M.B.A.
いまなら初月無料でお試しいただけます。
詳しくはこちら



MAIL MAGAZINE・SNS
メルマガ・ソーシャルメディア


メルマガ一覧を見る