国を動かす言葉の法則 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/11/29号

2021/12/6

もったいない・・・。
そう感じたのは、岸田内閣の看板政策のネーミングを目にしたときだ。

「新しい資本主義」「令和版所得倍増計画」「中間層復活」「成長と分配」。

日本の方向性を指し示す言葉ほど、未来を創るうえで重要なものはない。
にもかかわらず、コピーライティングの原則から外れているので、伝わらない。

読み手の記憶に残り、主体的な反応を引き出す言葉の法則から外れていると、
どんなに優れた政策に取り組もうとしても協力者が集まりにくい。

どう表現すれば、人を動かせるようになるのか?

最も重要なのは「欲求」「仕組み」「可能性」の要素をきちんと説明することだ。
その3つの視点から政策表現を添削してみる。

まずは「中間層復活」。
このフレーズには所得の二極化が広がるなかで下流に押しやられた庶民を救済したい意図があるのだろう。

しかし、これでは人の心に響かない。
読み手の「欲求」に根ざしていないからだ。

低所得で困窮する人に「中間層が復活しますよ」と伝えても他人事に聞こえるし、
中間層の人も「自分が復活してどうなるの?」とメリットを感じられない。

読み手の欲求に届くフレーズを生み出すには、人の痛みを想像する力が必須だ。

緊急事態宣言が続くなかで人々が感じていた痛みは、雇用不安と収入不安。
私なら「ゆとりV字回復」「余暇復活」といったターゲットに直球で届く言葉を掲げる。

次に「成長と分配」。

コピーライティングは「仕組み」が非常に重要だ。
実現する仕組みが明確でないと「どうやってやるの?」と疑問が湧く。

「成長と分配」はその点が不明確だ。

だから「分配のために増税するのか?」「成長のために残業しろということか」等と皆が言い出すし、
党首同士も成長が先か分配が先かと延々と議論することになる。

私なら「成長循環サイクル」という言葉で説明する。

分配面では医療・看護・介護・保育といった公共性の高い業界において「公共価値評価基準」を示し、
所得増の目標を具体的に掲げる。

成長面ではウィズコロナ時代に向けたスキル再構築のために、成長事業分野で「緊急雇用促進プラン」を発動する。
まずは行政のデジタル化に関わる広範な領域で、
積極的にアウトソーシングすることでスキル変革を率先し臓万人の雇用を創造する。

最後に「令和版所得倍増計画」。
この使い古された言葉では信用されないだろう。

私なら2倍ではなく思い切って10倍にする。
「10X JAPAN」を宣言して、それを実現するための政策提言を、国民を巻き込みながらまとめるのだ。

たとえば今後、教育の主軸になる探究学習などの場を活用して、
多様な分野で日本が10倍になるためのプランを、大学や高校発で考えてもらうといった具合だ。

デジタル時代は注目されるリーダーが発した言葉は瞬く間に広がっていく。

読み手の記憶に残り協力を引き出せる言葉を言えるのか、
何度言っても伝わらずどう誠意をみせても足をひっぱられるのか。

すべてはリーダーの言葉の選択次第である。

 

 

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