新潮流「オンボーディング」― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」9/9号

2018/9/28

米ニューヨークに来ている。
1929年から始まった由緒あるマーケティング賞、ECHO賞の審査員を務めるためだ。

この賞のために、全世界からマーケターが集結し、
広告などの制作物や実績などの観点から、マーケティング施策を審査する。

エントリーは1千作品超。
大手グローバル企業から開業したばかりの非営利法人まで、
さまざまなマーケティング活動の最前線を目撃する。

たとえば、今後日本でも頻繁に登場しそうなのが「オンボーディング」だ。
これは契約した顧客に商品・サービスを日常的に使ってもらうよう、習慣づけするプログラムだ。

ある法人向けクラウドサービスのプログラムでは、
契約日に最高経営責任者(CEO)から顧客に感謝のメールが送られ、担当者からもメールが送られる。

そこで紹介されるのは、サービスを使い慣れてもらうためのプログラム。
「1カ月後までにはこのぐらいの頻度でサービスを活用しましょう」と目標を設定し、
達成をサポートする。

そして契約2日後には、CEOから社名入りマグカップが贈られる。
感謝の意味もあるが、真の狙いはこのマグカップを使ってもらうことで、
顧客の心に、会社をより印象付けることだ。

あの手この手で顧客の日常生活に入りこむ。

このプログラムによって生まれる顧客とのやり取りや成果などのデータを集めて
人工知能(AI)で分析。
顧客が目的を達成するために必要な情報や提案を導き出し、随時提供する。

こうして商品・サービスの使用継続率を高めていく。

要は、「契約したら目的達成」ではなく、
「契約してからが本番」という当たり前のことを実施するのだが、
あまりに業務が煩雑で、大半の企業は実行しきれなかった。

しかし、ITが進化したことで、導入企業が増加。
成功事例も見られるようになった。

ECHO賞ではこうした事例が数多くお披露目される。

たった一つの成功事例でも翌年には、それを見本にした施策を設計・実行する事例が激増する。
もちろん、見本の上をいこうとするので、施策はグレードアップする。

さらに、マーケティングの成功事例が、業界やチャネルを横断しながら共有・蓄積されることで、
マーケターの養成・育成もスピーディーに進む。

ECHO賞は、マーケティング界全体にとっても大変意義深いが、
残念なことにECHO賞にエントリーする日本企業はほとんどいない。
言語の壁が高いようだが、実にもったいない。

日本のマーケターも急速に技術が高度化し、今や海外に比べて遜色ないレベルに達している。
エントリーする企業が増えれば、マーケティング界における日本のプレゼンスは大いに高まるだろう。

日本のマーケティング事例が多国籍の事例と競い合えば、
「日本らしいマーケティングとは何か?」について考えも深まるに違いない。

AI普及後に主流となる人間的なマーケティングモデルを日本からつくりだせる可能性は小さくない。
世界は、日本のコンテストへの出場(オンボード)を強く期待している。



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