米国で広がるESG ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/3/14号

2022/3/21

先日、当社の顧問弁護士からの電話が突然、鳴った。
「ESG投資をマーケティングの観点から見て、どう思いますか?」
思いがけない質問をきっかけに、マーケティング観点でESGについて考えてみた。

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、
これらの非財務指標を優良企業の評価に使い、投資決定をしていこうという概念だ。

現在の日本では大企業と投資家ぐらいしか関心を持っていないが、
米国ではESGの概念が市井にも広く浸透し始めている。

たとえば、昨年末、私が関わっている米国のNPO団体から送られてきたお菓子のギフトには、
次のような文章が書かれたカードが挟まれていた。
文章の主はレインズベイクショップという街の菓子店だ。

レインズベイクショップは、社会ミッションを持つ職人が経営する店です。
シカゴ市内の最も困難な地域における慢性的な失業、犯罪の常習性、富の不平等の問題に立ち向かうために、
すべて自然由来の材料で商品を製造しています」

「自然由来の持続可能な原料からデザートとケーキをつくることで、
私たちと同じ価値観や、社会経済変革へコミットメントを共有する地域の農家やビジネスを支援します。
私たちが稼ぐ1ペニーが、意味ある変化を確実に果たせるようにします」

私たちが主導している分野は、『社会正義』『食糧正義』『経済正義』『環境正義』です

見事なビジョンに感動した。
普通の街のお菓子店がESGに取り組んでいる事例をみると、新しい世界を実感する。

この試みが面白いのは、このクッキーをNPOが賛同者向けのギフトとして配っていることである。

NPOがクッキーを配るのは、繰り返し寄付をいただくため。

マーケティング的には、コミュニティーにうまく招き入れて、担当者を紹介し、
エンゲージメント、すなわち顧客との心のつながりを強めていくことで、継続的な寄付を促すわけだが、
そうしたパーソナルな関係性を築くためにクッキーを使っている。

そのNPOのニーズに、ESGの観点から店を経営し社会正義を体現する焼き菓子店はぴったり合っているわけだ。
評判が他のNPOにも広がれば、あちこちのNPOがレインズのクッキーを使い始めるだろう。
結果、レインズはこの分野のトップブランドになっても不思議ではない。

今後、ESGによる評価は、ありとあらゆる商取引に広がってくるはずだ。
ESGに取り組むとは社会的責任を果たすことであり、荷が重いと感じるかもしれないが、
責任をあまり重く考える必要はない。

責任とは、レスポンシビリティ、すなわち「レスポンス+アビリティ」。
返報できる力のことだから、まずはあなたの商品を買ってくれた顧客に一言お礼をするだけで
十分に社会的責任を果たすことになるのだ。

まずはお礼を習慣化しよう。
そうすれば、その延長で、あなたの組織はESGの責任を果たせる組織へと変わりはじめるはずだ。

 

 

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