ネットワークから変化を起こす ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/5/30号

2022/6/6

YouTuberのようなインフルエンサーは、実は、革新的な変化を起こす存在ではない。
そんな今までの常識を覆す研究結果をまとめた本が昨年出版された。

ペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション大学院のダモン・セントラ教授が著した
『Change: How to Make Big Things Happen』だ。

一般的に、ヒット商品が広がるプロセスは伝染病のようにたとえられる。

コネクターと呼ばれる人が、周囲の多くの人にSNSなどを使って商品情報を伝えることで、
爆発的に商品が広がっていく。最近ではYouTuberがその存在だと考えられていた。

ところが、セントラ教授が、SNSでハッシュタグがつけられたメッセージがどう広がり、
人々の行動につながるのかを調査したところ、
商品やサービスの伝染プロセスはウイルスのように広がるものではないとわかった。

その普及プロセスとは何か?
一言でいえば「冗長なコミュニケーション」だ。

複数の人から、複数回、繰り返し、同じ情報が入ってきたときにはじめて、その人は行動を変化させる。
魚をとる網のように、人と人とが相互複層につながりあう場合に、はじめて複雑な伝染は引き起こされていくのである。

影響力がある人が少し言ったからといって、周囲の人の行動が変わるわけではないのだ。

この研究は、日本のDX推進においても、極めて示唆に富む。

社内から優秀な人を集めてDX推進室をつくると、
その優秀な人の影響力を相殺する勢力が出てきて、変化を阻止しようとする。

そんななかでDXを推進するにはどうしたら良いのか。

重要なのは「誰」ではなく「どこ」。
特定の誰かが変化を起こそうとするのではなく、ネットワークの辺境から変化を起こすというのが、セントラ教授の教えだ。

効率的なのは、ショットガンやじゅうたん爆撃のように無差別に働きかけるのではなく、
一つの小さなクラスターに働きかけること。会社なら、一つの部署にフォーカスする。

部署のうち、変化を起こすのは全員ではなく2人だ。
1人だと火が消えやすいが、2人が変化に対してコミットすれば、火が消えにくく、周りに広がっていきやすくなる。

そこから全体の25%の人に広がれば、一気に全体に広がっていくというのだ。
さらに、一つの部署で変化が25%を超えたら、他部署に広げていく。

その際、異なる部署間をつなぐ人が増えるほど、勝手に普及していく。

こうした「スノーボール方式」で広げていけば、ショットガン方式よりも3倍近く変化が早いというのが、
調査から導き出された結論だ。

冗長なコミュニケーションは、かつては飲み会がその役割を果たしていた。
しかし、現在はコロナなどの影響で減ってしまった。
会社で根本的・複雑な変化が起こりにくくなっているのはこれが原因だ。

こうした環境のなかで、いかにスノーボール方式で変化を起こしていくか。
そのヒントが、本書には詰まっている。翻訳が待たれる一冊だ。

 

 

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