なぜ今、「木こり講座」が人気なのか?――日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」8/21号

2017/8/29

「あなたも1日で木こりになれる!」と聞いたなら、あなたは木こりになりたいだろうか。

実は森林に入って木を切る術を学ぶ「木こり講座」が人気だ。
この講座を受講すると、単に「木こり」という肩書きを名刺に入れられるだけでなく、
循環型社会をつくる重要なエンジンになれる。

講座の中身は本格的だ。
受講料1万7000円を払うと、青森の森林でプロの木こりに、
チェーンソーを使った間伐や木材の搬出などを教えてもらえる。

森林で非日常な体験ができるだけでなく、
受講後にはチェーンソー取扱技能特別教育修了証が発行され、
木こりとして働けるようになる。

この講座の魅力はそれだけにとどまらない。
受講生が間伐することが、社会貢献になるのだ。

森林の木をすくすく育てるには適度に木を間伐し、間引くことが不可欠。
しかし最近は人手不足で間伐できず、荒れ放題の森林が少なくない。
そこで受講生が間伐をすれば、森の保全に一役買えるのである。

さらに間伐した木材は、地元の障害者施設で、
大気中の二酸化炭素を増やさないエコ燃料「木質ペレット」に加工される。
受講生が間伐することで製造コストが抑えられ、灯油代わりのストーブ燃料にもなった。

つまり、「木こり講座」が、地元の森林の木を地元で使うエネルギーとして活用する
循環型社会を生み出しているのである。

加えて、受講者は、間伐のお礼に、「モリ券」という地域通貨がもらえる。
これで名物を味わい、土産を買えば、地域経済も活性化するというわけだ。

この仕組みを描いたのは高橋博志さん。
リフォーム用木材の通信販売を手がける会社、高橋(青森県三沢市)の社長である。

立ち上がったのは、日本の森林に対する危機感からだ。
自身も祖父から森林を相続して、森を守る難しさを痛感していた。
このままでは日本の豊かな森林が失われ、安価な輸入材ばかりが流通することになりかねない。

その打開策として行き着いたのが、間伐材でペレットをつくることだ。
これなら、森林の荒廃を防ぎながらお金を稼げる。

ただ、ネックは、間伐する人がいないことだ。
プロの木こりに頼むと、採算がとれない。

行き詰った高橋さんは悩んだ末、突破口を見つけ出す。
それが「木こり講座」だ。

木こり体験をレクリエーション化すれば、受講者は楽しめるし、
こちらも安く間伐できると考えた。

反響は高橋さんの予想以上。
2013年に第1回目の受講生を募ると、
定員20人の枠に、50人以上が応募してきたのである。

その後も、東京や大阪、福岡など全国から人が集まっている。
ここで得た技術を生かし、自分の地元の森林を整備する人も出てきている。

この社会変革は、「価値が無い」と思われていたものをビジネス化したことから、
すべてが始まった。

同様の変革を起こすには、自分たちが嫌がって人手が集まらない作業を
エンターテインメント化、学び化するという視点を持ってみよう。

あなたが嫌がっている仕事は、社会を変える最高の遊びになる可能性がある。

 

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この記事に登場している企業は神田昌典の次世代マーケティング実践会(*略称The実践会)の会員様です。
The実践会は、ついつい神田が記事にしたくなるような実践を日々されている経営者・経営幹部・地域のリーダーのコミュニティーです。

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