再配達問題に「ローテク商品」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」10/8号

2018/10/15

物流会社と現場のスタッフを苦しめる宅配便の再配達。

一説には約2600億円もの労働力のムダ遣いになるという。
物流会社のみならず、日本社会全体にとっても大きな損失だ。

その解決のために、通信技術やセンサーを搭載する宅配ボックスの設置といった
ハイテクな商品も出てきている。

だが今、ブレークスルーをもたらすのではないかと注目されているのは、
8月に発売されたあるローテク商品だ。

その商品の名前は「OKIPPA(オキッパ)」。

玄関先など依頼した場所に荷物を置く「置き配」バッグで、施錠ができる。
ドアノブにかけられるほどコンパクトだが、開くと13キログラムまでの荷物を入れられる。

不在の時は宅配スタッフがバッグを開き、荷物を入れて施錠すれば、持ち帰らずに済むわけだ。
バッグの両端を引っ張るとクルクルと簡単にしまえる。

これだけでも十分機能的だが、商品の配送状況を把握できるほか、
現在ではバッグと連動するアプリも開発され、荷物が配送されると通知を受けとれることも可能。

施錠だけでは心配というユーザーのために、
東京海上日動火災保険と共同でバッグ専用の盗難保険「置き配保険」も開発した。

発売元は2017年創業のベンチャー企業のYper(イーパー、東京・渋谷)。

地球環境保護や情報数理科学などを学んだ80年代生まれの若い経営者が、
クラウドファンディングで資金調達をし、商品化した。

じつはもう1社、この開発プロジェクトを支えている企業がある。
創業140年の老舗企業、マーナ(東京・墨田)だ。

創業は明治5年。新潟県長岡藩の宮大工だった創業者が、
外国人の使う洋服ブラシを見よう見まねでつくったことから始まった企業で、
日本で最も早く国産ブラシをつくったといわれている。

伝統製法を守り続ける“カタい会社”のようなイメージがあるが、同社は真逆。
柔軟な発想で次々とイノベーションを生み出している。

そのひとつが魚の形をした「おさかなスポンジ」だ。
しっぽの部分を使って、グラスの底の隅々まで洗えて便利として、
5個100円のスポンジが全盛の中、1個200円以上で売り出したところ大ヒット。

ブタの顔をしていて鼻の部分から蒸気を逃がせる「ブタの落としぶた」など、
見るだけでにんまりするヒット商品を連発している。

オキッパの元となったエコバッグも、実はマーナの「シュパット」という商品だ。
2千円以上するエコバッグとしては高価だが、エコバッグでは異例の100万個を超えるヒットを記録。

これに着目したイーパーの起業家たちが、再配達をなくすためにも使えると考え、オキッパが生まれた。

17年創業のベンチャーと1872年創業の老舗。

業種もIT(情報技術)と生活用品の開発とまるで違うが、
両極端の会社が、世代や立場を超えて社会問題の解決に向かうことで、
ワークライフハーモニーを生み出すイノベーションにつながった。

こうした老舗とベンチャーのコラボは
日本らしいイノベーションが生まれる一つの方程式なのかもしれない。

 

**********

この記事に登場している企業は神田昌典の次世代マーケティング実践会(*略称The実践会)の会員様です。
The実践会は、ついつい神田が記事にしたくなるような実践を日々されている経営者・経営幹部・地域のリーダーのコミュニティーです。

**********



MAIL MAGAZINE・SNS
メルマガ・ソーシャルメディア


メルマガ一覧を見る