「教え直し」で輝くベテラン ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」23/3/27号

2023/4/3

あるビジネス誌の編集者から聞いたのだが、昨年、最も読まれたテーマが「学び直し」だったという。

「Chat(チャット)GPT」のような人工知能(AI)活用が急速に本格化し、
これまでの知識や経験がテクノロジーによって代替されるようになる。
「自分にはどんな価値があるのか」という不安が募り、何か学ばなければならないと焦る気持ちもよくわかる。

しかし、ベテラン人材にとっては「学び直し」よりも「教え直し」が重要だというのが、
ここ3カ月にわたってAIツールに向かい合ってきた私の意見だ。

最近、ChatGPTの最新モデル「GPT-4」がリリースされた。

前のバージョンでも私は、極めて創造性が高いと思っていたコピーライティングの仕事が
あっけなく代替される危機感を持ったが、さらにGPT-4は文脈の理解や論理的推論が向上したといわれている。

今までの経験が何の役にも立たなくなるという恐れを抱く人がいるのは無理もない。

しかし、それは早計である。ChatGPTを始めとしたAIは万能ではないからだ。
あるテーマに関する情報・事実を並列的に引き出して文章を構成することは非常に得意だが、苦手なことも少なくない。

そのひとつが、複数の概念が絡み合った中から、最適な結論やそこに至る道筋を見いだすことである。
「風が吹いたら桶(おけ)屋がもうかる」という単純な因果関係を結ぶ道筋はスムーズに見いだせるだろう。

一方で、複数の事柄が絡み合った状況では、自分が何をすればいいかという解は見いだせないようだ。

一見もっともらしい答えは出すのだが、内容を吟味してみると、同じ結論を堂々巡りしているだけである。
多様なステークホルダーを巻き込んでいく、
今までにはなかったソリューションを期待することはまだ難しいのかもしれない。

そうした発想の壁を超えるためには、経験に基づく「独自の視点」が必要になる。
たとえば、保険会社で長年働いてきた人にとっては、風が吹けば農作物の価格が乱高下する。

それが、農業経営が安定しない元凶になる。
だから保険業界で使われているリスク管理法を農業経営に応用すべきだといった課題解決アプローチが思いつくだろう。

そうした視点を加えることができるのは、経験者だけだ。

では、AIとの共創時代において、自らの独自視点を加え、
価値あるソリューションを生み出せる人材になるためには、どうすればいいのだろうか。

私がすすめるのは、勉強会や講演会などで自分の経験を積極的に話すことだ。
教えようとすれば、そのプロセスを通じて自分自身が持つ経験や知識をより深く理解し、周囲からも再評価される。

さらに経験や知識を映像化すると、多くの人が見られるようになり、よりチャンスは広がる。
会社の中でも再配置されるかもしれないし、会社の外に出てみるとあなたの価値はもっと高まることもあるだろう。

AI時代に未来を生み出すためには、学び直しよりも教え直すことを意識してほしい。
決して過去を否定することではない。

 

 

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