貸し自転車で地域活性化 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」23/8/28号
2023/9/4
福島県楢葉町は被災による人口減のため、交通手段が限られている。
常磐線が通っているものの、12時43分発の次は14時54分発。
隣駅へ移動するのに乗れば3分だが、1本を逃せば2時間待つ。
駅を降りた後も、運転手の成り手がいないため、タクシー台数も少ない。
観光客を呼び込もうにもままならない。
そんな楢葉町で導入したのが、電動自転車をアプリと連動して貸し出すシェアサイクルサービスの
「COGICOGI(コギコギ)」である。
借り手は24時間いつでも利用できる。
アプリと連動しているので、貸し手もポート(置き場)を人手で管理する必要がなく運営しやすい。
ローカルモビリティーは地域のニーズに対応するだけでなく、
極めて安価な地方活性化の策になりうる可能性がある。
コギコギを導入した複数の地域では地元スポットに立ち寄る人の数が増えた。
タクシーだと目的地に行って帰ってくるだけだが、
自転車移動だとたまたま見つけた食堂や神社に立ち寄ることができる。
貸し出した自転車の位置情報データを記録しているので、
どのように移動したのかという人流を把握できるのである。
立ち寄る場所や選ばれるルートが明らかになることで、忘れ去られていた地域の魅力が再発見されるわけだ。
コギコギの中島社長いわく
「こうしたデータをもとに、新たな観光スポットが観光マップに加わることもある」という。
考えてみれば、地域活性化のマーケティング戦略をデータに基づき、素早く打てるということである。
デジタルマーケティングでは新商品をローンチする際、始めは小さく広告を出しながら、反応をデータで把握。
商品が強調すべきベネフィットと顧客ニーズのベストな組み合わせを見いだす。
スイートスポットが見いだせたら、客数増を狙い、広告を拡大していく。
コギコギはまず自転車数台のポートから始め、利用者が訪れる場所をデータで見ながら、
人の流れに応じてポートを置くべき数やロケーションを微調整していく。
こうして、観光マップにまだ反映されていない地域特有の魅力を持つスポットを割り出していくのだ。
同時に、シェアサイクルで地域をゆっくりと巡る旅が実現する。
つまり交通手段の制約が観光客にとっての驚きや発見の瞬間へと変わる。
限られた交通環境こそが、地域の魅力の源泉となるという逆転の発想だ。
自転車によるスローな旅はトレンドに合っている。
世界のサイクルツーリズム市場規模は2021年、1078億ドルに達した。
20年代は毎年9%超の成長を維持すると予測されている。
コギコギは新型コロナウイルス感染拡大前にサービスを始め、エリアを広げてきた。
26年には200エリアへと拡充する計画だ。
1500ほどある人口10万人以下の自治体に注力し、地域の特性をいかしながら魅力を発信する狙いだ。
はじめは地域の外から入り込む小さな流れかもしれないが、マーケティングは太い流れへと変えていくことができる。
マーケティング思考があれば、打つべき手段はいくらでも見つけられるのである。
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