「非常識な成功法則」のススメ ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/1/8号
2024/1/15
講演会に呼ばれるはずがないところからお声がかかった。
しかも依頼を受けた内容が予想外なものだった。
人事労務SaaS(サース)を手がけるSmartHR(東京・港)から、
拙著「非常識な成功法則」の内容を踏まえ、目標管理について社員に話してほしいと頼まれたのである。
22年前に出版した本で今も毎年増刷がかかる累計30万部以上のロングセラー。
とはいえ、企業の労務管理の担当者向けに、本書の内容を話してほしいと頼まれるとは考えたことがなかった。
「非常識な成功法則」は企業の人事の考えと真逆。
「成功するためには、きれいごとではなく、嫉妬や物欲、見えといった悪の感情を使うこと。
社会貢献や心の豊かさなどの善の感情はその後に満たしてください」という内容だ。
さらに「目標設定をするにはまずやりたくないことを決める。
具体的には後輩の尻拭い、嫌な上司に頭を下げる、嫌な取引先の仕事、つきあい残業……。
これらを書き出し、やりたくないと宣言。そうすれば、自分にしかできないやりたいことだけが残る」と記した。
人事が社員に推奨する行動を全否定している。
講演会を企画したのは「図解 目標管理入門」の著者である坪谷邦生さん。
こんな本を人事労務の人が目標管理の推奨本にするなんて、天地がひっくりかえったとしか思えなかった。
なぜ企業の目標管理に、この本が選ばれたのか。
理由は個を満たされなければ、組織は勝てない時代になったからだ。
かつて会社を離れて給与明細書がなくなった途端に生活が困窮していた。
ただ、今では会社勤めをしなくても収入源がたくさんある。
YouTuberがサラリーマンの生涯収入を上回る金額を数年で稼ぎ、
ライバーは赤ちゃんを抱っこしながら日常を自宅からライブ配信するだけで生計が成り立つ。
給与が何年も上がらない会社に生涯勤め続けようと説得し続けるのは、親でも教師でも難しい。
仕事以外にも面白いものがあふれかえっている。
企業は組織による制約から離れて個を満たすことに没頭できる体験を社員に提供しないとならなくなった。
「幸せな未来は『ゲーム』が創る」の著者であるスタンフォード大学のジェイン・マクゴニガル教授は
「生きている実感、英雄的な使命、没頭している感覚、コミュニティの存在、チームの勝利、成功のスリル」を
提供しないと企業はダメという。
まさにゲーム的な仕事だ。
その中核の9割が目標管理なのである。
重要にも関わらず、効果的に実践できている企業は少ない。
目標管理ができていない組織はすぐにわかる。
顧客の噂よりも同僚の噂であふれかえるし、事業成長よりも福利厚生の意識が強い。
さらに口先ばかりの人的資本経営……。
「非常識な成功法則」を人事が推奨するということは、組織が指示したことをこなすよりも、
自分の可能性をこの会社で夢中になって実現してほしいということだろう。
今までの非常識を常識にすることこそ、これからの人的資本経営ではないだろうか。
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