AIで民主化する事業開発 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/6/24号
2024/7/1
イーロン・マスク氏が、ウーバーのように個人が自家用車で他人を運べるライドシェアサービスを始める計画を
4月に発表した。
四半期報告会後の記者会見のほんの一瞬だったが、インパクトは絶大だった。
理由はアプリのユーザーインターフェース(UI)デザインを発表したから。
それがあまりに直感的で、これまでライドシェアに興味がなかった人も引き付けるものだったからだ。
週末、運転して小遣いが得られると喜ぶテスラオーナーの声もあった。
私が注目する理由はライドシェアのビジネスポテンシャルではない。
事業を開発するプロセスが人工知能(AI)によって見事に変わった点だ。
従来の事業開発では、ビジネスコンテストでよく見られるように、
パワーポイントで、対象顧客や提供価値、財務計画などをプレゼンするのがお決まりだった。
ところがイーロンがしたのは、そういう典型的なプレゼンではない。
直感的に理解できるクールなUIを一瞬、示しただけだった。
UIができているぐらいだから入念な議論が社内でなされたように見える。
しかし、私はマスク氏が思いつきで発表したのではないかと思っている。
UizardやFigmaのように、キーワードを入力するとUIを一瞬でデザインできるツールが
次々と実用化されているからだ。
試しに、ペットのシャンプー出張サービスを全国展開するクライアントと、そのツールを試してみたら、
ものの10分も経たずに新しい価値を提供できるアプリのUIがデザインされた。
さらにGitHubCopilotやOpenAICodexなどのように、コーディングが可能なAIツールもある。
キーワードを入れれば要件定義からUIデザインまで一気通貫でできるツールの登場も、間近だろう。
これを見たとき、衝撃を受けたというより心配になった。
AIにより人間の仕事が奪われるのでシステム開発会社が要らなくなるのでは、と。
しかし、こういった議論の結論は毎回同じ。
同じ仕事しかしない人は仕事を奪われるが、AIを使いこなす人はもっと求められるようになるということだ。
ライドシェアの場合、ドライバーを短期で育てるトレーニングの仕組みや、
趣味嗜好に合った会話ができるドライバーと乗客とのマッチング機能などを企画・開発できる人だ。
お困りごとをプロジェクト化し、キーワードを見いだし、プロトタイプを作って、概念の実証をする。
これはまさに今、教育界が進めている探究学習に他ならない。
AIを駆使すれば小中学生でも、授業中にプロトタイプはすぐできるようになった。
そこに大人が技術検証などのサポートをすれば、新規事業開発が加速的に進む。
これはまさに事業開発の民主化だ。
このように未来に大きな希望が見え始めた一方、一番の障害は変化に抵抗する大人である。
この人たちの口癖は「自分には無理」「もう年だから」「この仕事は自分に合っていない」だが、
未来に対して毒になっている。
AI時代に最も必要なのは、変化に抵抗するマインドのリスキリングなのではないだろうか。
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