施設開発に見るイオンの強さ ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/7/8号

2024/7/15

先日、友人の紹介で初めて出会ったイオンの中堅社員とランチをした。

その際、ショッピングモールの未来について話をしているうちに、
約5年前にあるクライアントから相談された際、私が独自に考案した「イオン新業態の開発コンセプト案」を思い出した。

それは今後のショッピングモールは全国均一でなく、地域に根ざしたビジネスモデルを構築し、
地域特性を生かした施設運営を通じて地域経済の活性化を目指すというものだ。

それを実現する方法の一つとして提案したのが、「美育」という親子向け教育サービスだ。
美(Be)と自分らしさ(Be-Ing)を引き出す教育で、後に脚光を浴び始めたウェルビーイングにも合致する。

問題は収益とリスクのバランスだが、「美育」は小さく始めつつも大きな変化につながる可能性がある。

モール内に塗り絵を思い切り描けるスペースを設ければ、子供が1人で遊べるため親は来店しやすくなる。
ビジュケーションアプリを導入すれば、来店促進にもつながるだろう。

特に美容関連商品は粗利や購買頻度が高いため、オンラインから実店舗への移行が容易であり
美容関連の店舗を誘致しやすくなる。

さらに、この取り組みをきっかけに地元ならではの店舗をそろえ、
将来的には地方空港の周辺からの導線を考慮し、インバウンド需要に応えることもできる。

当時は現実離れしていると言われたその案を、私はイオンの社員に伝えた。
すると驚いた。
「実は新社長になってからの方針です」と、2022年2月のMJの記事を後ほど送ってきたのだ。

見出しは「『どこも同じ』捨てたイオン多彩な商業施設に」。
全国一律の商業施設はもはや通用しない、と掲げた構想が「地域に根ざしたプラットフォーム」。

地域や顧客ごとのニーズを細かく分析し、
新業態創出やデジタル技術活用などで各施設で最適なCX(顧客体験)を提供しているという。

まさに私の構想と同じコンセプト。

営業収益が約10兆円に迫るイオンがこうした地域づくりをし始めたことは、
地方創生にとって非常に明るい展開だと思う。

私は似た提案を他の流通チェーンにもしたが、腰が重い企業が大半だった。
現場は「未来志向すぎる」といい、役員は「理想だけど現場が動かないから無理」という。

元凶は何か。
私は「分析至上主義」と考える。

一般的な意思決定プロセスでは、まず調査し課題を把握して分析するが、たいがい新しいものに否定的な結果が出る。
例えばiPhoneが登場した時、アンケートをとると多くの人が「そんなに高い電話は売れない」と否定した。

過去にも自動車が登場すれば「馬車があるから要らない」、
メールが登場した時は「FAXがあるから不要」と多くの人が言った。

しかし新たな成長を生み出したいなら、過度な「分析至上主義」は見直されるべきだ。
イオンはかつての勝ち筋と言われる全国一律の店舗を捨てたにも関わらず、3期連続で増収増益している。

このことは巨大企業でも変わることができる見本として、もっと語られるべきだと思う。

 

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