新札とデジタル通貨の共存 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/7/22号

2024/7/29

3日、新紙幣が発行された。
肖像画に選ばれたのは渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎の3人。

マーケティングの視点から見て、新札に描かれた人物たちがこれからの未来に与える影響は非常に大きい。

人間の顔は想像以上に人の行動を左右するからだ。
広告テストをするとそれは明らか。

人の顔が入った広告は顔がない広告より反応率が高い。
あるマーケティング専門誌の調査では、顔が入った広告は入っていない広告に比べコンバージョン率が177%上昇した。

私も以前、顔入り・顔なしの広告をABテストすると、顔入りのコンバージョン率は顔なしの3.5倍に達した。
顔が入ることで視覚的な訴求力が増し、信頼性が上がる。

同様に、新札に描かれた人物たちも我々国民に強い印象を与え、
彼らが功績を残した分野が未来に向けて活発になることが予想される。

見ている人は知らず知らずのうちにその分野の知識がつき、自分の仕事においても影響を受け始める。

新札が象徴する分野とは何か。
渋沢栄一は500以上の事業を創業し300が存続する「連続・社会起業家」だ。

彼の事業開発と起業の精神は、新しいビジネスモデルやスタートアップの創出を促し、
若者たちに多様なキャリアパスを提供する。

唱えた「道徳経済合一説」も広まり、今後は社会起業家が非常に注目を集めるだろう。

津田梅子は6歳の時に岩倉使節団で米国に留学し、日本婦人米国奨学金や、
津田塾の元である女子英学塾を設立した、女子エリート教育の象徴だ。

彼女の教育理念がSTEM教育やギフテッド教育の普及を後押しし、
身分にとらわれない実学重視の教育や奨学金による教育格差是正がトレンドになるだろう。

北里柴三郎は近代医学の父であり、細菌学で多大な功績がある一方、
「医の基本は予防にあり」という信念があった。

彼の顔は感染症対策だけでなく、予防医療の重要性を強調し、
ウェルネスプログラムや地域医療の充実に寄与するだろう。

一方で、今回の新札発行で面白いのは、
デジタル通貨の普及により紙幣の象徴的な影響力が相対的に弱まることだ。

デジタル通貨は顔がなく鏡のようなものなので、
個々のユーザーがペルソナとして機能し個人の力が増すことになる。
すると、あらゆる分野でのパーソナライゼーションが加速する。

例えば人工知能(AI)やビッグデータ解析技術を活用することで、
適切な消費行動や効率的な資産運用が可能になるだろう。

こうした変化の中ではマーケッターも進化する必要がある。
数値だけを追い、市場や事業を拡大するだけでは不十分。

マーケティング活動が個人や社会のウェルビーイングにつながるかという非市場的観点も重要だ。
短期的な利益を追求する広告は、かえって長期的な企業パーパスの実現を妨げる可能性がある。

結論として、新札とデジタル通貨の共存は、
経済活動のデジタル化と個性の尊重を両立させる新時代をもたらす。

この変化が我々一人ひとりに新たな可能性と発展をもたらす工夫を、積極的に推進していきたい。

 

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