スライドをAIツールで ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/9/16号

2024/9/23

「企画書づくりか……。今週末も仕事だな」
「時間をかけて作ったのにまた修正だって?」

こんな悩みを抱える人は少なくない。
何時間もかけてスライドを作り修正に追われた挙げ句、承認プロセスで足止めを食らう。
その間にアイデアは色あせ、チャンスはどんどん逃げていく――。

そんな状況を大きく変えようとしているのが、AI(人工知能)スライド制作ツールだ。
企画のキーワードを入力するだけで、見栄えの良いスライドを迅速に自動生成してくれる。

Gamma、Tome、Copilotなどが有名で、日本のベンチャーも質の高いツールを生み出している。
イルシルはその代表だ。

日本語の文章や論理構成もしっかりしていて、ビジュアルに傾きすぎることがない。
私自身の体験では、これまで丸1日かかっていた制作作業が3時間弱で終えられた。

自社のオリジナルデザインにこだわらなければ、十分実用的だ。
創業者の宮﨑有貴氏いわく、学生時代から数千もの企画書を分析し、日本人が使いやすいテンプレートを作り上げたという。
イルシルで私が作成した提案書を見て、私の周りの人も急速に使い始めた。

AIスライド作成ツールの登場により、職場には3つの大きな変化がもたらされるだろう。
一つ目は「企画の民主化」。

ツールを使えば、スライド作成スキルがなくても誰でも簡単にアイデアを視覚的に表現できる。
これにより、新入社員や学生などが企画を提案しやすくなり、アイデアの共有が大幅に促進される。

次に「アイデアの質がこれまで以上に重要視されるようになる」。
ツールがデザインの問題を解決してくれるため、見た目よりもアイデアそのものの価値が強調される。
これにより、より創造的で革新的な発想が評価される環境が整う。

そして「アジャイルな実行力の向上」。
どんなに優れたアイデアでも、迅速に実現できなければ意味がない。

現代の競争力の源泉はスピードと柔軟性だ。
思いついたアイデアを即座に行動に移すために、人々が協力し合い、効率的に動ける仕組みの整備が進むだろう。

ただし、この3つの変化を加速させる上で最大の障害がある。
それは、複雑で旧態依然とした意思決定プロセスだ。

これが遅いままではツールの効果は半減する。
AIツールを活用するためには、意思決定プロセスをシンプルにすることが不可欠だ。

例えば、全ての企画の意思決定を定期的な会議ではなく、ビジネスチャットのちょっとしたやり取りで行う。
信号機のように「緑」で承認、「赤」で非承認、「黄」で保留、というシンプルな意思表明ルールを取り入れるだけで、
誰でも意思表明ができ、意思決定は驚くほどスムーズになる。

AIツールと新しい意思決定ルールの導入は、より多くの人が参画し価値あるアイデアを実現するための両輪だ。
この二つがかみ合うことでスピーディーな働き方も自然に整っていく。

AIによって仕事の効率が格段に上がるといわれるが、
本当にその恩恵を受けられるかどうかは意思決定プロセスを簡素化できるかどうかにかかっている。

 

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