成長企業は衝突恐れず ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/9/30号

2024/10/7

先日、138年の歴史を持つ東京の企業、カクイチを訪問した。
老舗企業でありながら、都内の高層ビルにあるオフィスは新進気鋭のスタートアップのように新鮮で活気に満ちていた。

役員とワークショップをした後に行われた懇親会で、私は再び驚かされた。

役員同士のやり取りは、まさに遠慮がなく、
「うちの部署の利益を食っている」「あなたはいつもこの癖が出る」と率直な意見をぶつけ合っていた。
しかし奇妙なことに、その場の空気は和やかで、全員の表情は柔らかかったからだ。

なぜこんなことが可能なのか。
それは衝突を恐れないほどの深い信頼関係があるからだ。

率直でオープンなコミュニケーションこそが、成長企業の本質的な強さを生み出していると確信した。
衝突を恐れない姿勢は、成長の重要な土壌となる。

全員が本音でぶつかり合うことで納得し合い、共通の理解のもとで事業を進められる。
失敗があっても、問題を放置することなく改善できる。

だからこそ確実に結果を追い求められ、持続的に成長し続けられるのである。

5代目社長、田中離有氏と私の縁は20年以上前にさかのぼる。
彼は私の講義のテープを繰り返し聞き、マーケティングを徹底的に学び続けた。

学んだことを社員たちに伝えて、「とにかく実践せよ」と号令をかけた。
その結果、社員たちは新たな事業を次々に生み出す力を身につけた。

このマーケティングマインドが、今や役員になった彼らに深く浸透したことで、
カクイチは伝統に安住することなく、常に革新的事業を生み出すことに成功している。

太陽光事業では、車3台分のガレージの屋根からメガソーラーに匹敵するエネルギーを創り出し、
アクアソリューション事業では、ウルトラファインバブル技術で農薬使用を減らしながら農作物の収穫量を拡大。
人工知能(AI)技術で灌水(かんすい)タイミングを最適化し、水資源を効率利用している。

さらに環境事業ではEVフォークリフトのサブスクリプションモデルを展開。
農業、エネルギー、物流、地域社会に新たな価値を提供し続けている。

挑戦はここで終わりではない。
潤沢なキャッシュフローを軍資金に、次なるステージへの突破口が開かれはじめている。

環境インフラ企業としてポジショニングされることで、海外の大規模開発案件の引き合いが急速に舞い込み始めている。
138年たって、「これからが本領発揮」と幹部の結束は固い。

同社を見て感じたのは、老舗企業でもここまで成長できること。
その鍵がマーケティング力による継続的なイノベーションにあることだ。
さらにその根底にあるのは「衝突を恐れない姿勢」である。

マーケティングは顧客に対して価値を最大化して提供すること。
イノベーションはその価値を生み出すために、自らの限界を超えて新たな方法を模索し続けること。

どちらも遠慮していては成し得ない。
真の成長を求めるためには、本音でぶつかり合う文化が不可欠だ。

社員同士の表面的な行儀の良さだけでは、企業のダイナミズムを殺しかねない。

 

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