進化する日本流D2C ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/10/14号

2024/10/21

日本の電子商取引(EC)市場は、海外とは異なる独自の進化を遂げている。
その象徴的な例が「縦に長いランディングページ(LP)」を使ったD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)事業だ。

D2Cとは企業がインターネットで顧客に直販するスタイルだが、ネットのない時代から原型はあった。
新聞の折り込みチラシを通じて、こだわりの食品や化粧品、健康食品、住宅などを販売する方法だ。

商品の詳細や製造者のこだわりを伝えるために、チラシには多くの情報が提供されていた。
この伝統は日本のLPの発展に大きく影響している。

チラシと同様に、顧客が納得し購入を決断するまでのプロセスを細かく設計するため、自然と文章量が多くなる。
だから縦に長くなるわけだ。

この折り込みチラシの特徴をLPに導入し、日本のD2C市場の成長に大きく貢献した企業が、
2023年10月に東証グロース市場に上場した売れるネット広告社だ。

代表の加藤公一レオ氏が率いる同社は、サントリーやライオン、
D2C業界のリーダーであるやずやや北の達人コーポレーションなどを支援してきた。
これらの企業はLPを活用して売り上げを伸ばしてきた。

売れるネット広告社が成果を出せる要因は、単にLP作成ツールを提供するだけでなく、
確実に売れるLPを徹底的に追求してきた点にある。

「どのメールの件名が開封されやすいか?」「配信が効果的な時間帯は?」
「申し込みフォームはLP上に設置すべきか別ページか?」。
細部に至るまで仮説を立ててA/Bテストで検証し、最適化することを20年以上繰り返してきた。

私自身D2Cのコピーライティングを突き詰めてきたが、同社のメッセージの発信タイミングや見せ方には目を見張る。

そうして蓄積した経験とデータを人工知能(AI)と組み合わせ、より洗練されたサービスを実現している。
その一つが新商品のLPのプロトタイプを数分で作れるツール。

マーケティング経験がない新人でも効果的なLPを短時間で作れて、自信を持って自社商品を販売できるようになる。

D2Cの最大の強みは、顧客との深いコミュニケーションを可能にする点だ。
商品のストーリーや作り手の思いを伝えることで、客は製品だけでなく、その製品が提供する「体験」に心を動かされる。

これにより顧客との関係が深まり、ファンコミュニティーが形成される。
ここにブランディングやサステナブルな成長の鍵がある。

さらにD2Cモデルは企業が顧客と直接対話するので、商品やサービスを柔軟に改善しやすい。
AIや自動化ツールの導入によって、データ活用や顧客体験の最適化はより一層強化される。

今後は自然食品や化粧品だけでなく、
詳細な説明が必要な最先端のテクノロジー製品や複雑な医療サービスなども提供されるようになると考えられる。

未来のEC市場、とりわけD2Cは、技術革新を通じて新たなビジネスモデルの創出を支える
イノベーション基盤としての役割をさらに強化していくだろう。

 

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