働き方、リモートもリアルも ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/11/10号
2024/11/18
「いまどきリモートワークなんてやっている会社に勝ち目はない」
ある経営者のSNS投稿がちょっとした波紋を広げた。
すかさず「オフィスワークこそ時代遅れ」という反論が飛んできた。
まるで昭和の古き良き派と、令和の未来派がバトルしているようだが、
この対立をじっと見つめていると、2030年に向けて飛躍する企業の条件が見えてくる。
今、企業が目指すべきは「リモートか、リアルなオフィスで働くか」という二者択一ではなく
「リモートも、リアルも」という発想だ。
これを「パラドキシカルリーダーシップ」と呼ぶ。
ハーバード・ビジネススクールのウェンディ・スミス教授が提唱する考え方で、
ポイントは「どちらかに決めつけず、両方を生かす」という柔軟な発想にある。
現実は複雑でシンプルな正解なんて存在しない。
だからこそ、矛盾を乗り越え新しい価値を創造する力がこれからのリーダーに求められる。
「WorkLifeShift」という新しい働き方を導入した富士通はその一例だ。
テレワーク環境を整え、男性の育児参加率100%を目指す取り組みやワーケーションなどを推進。
テレワーク率を80%に維持することで、1人の通勤時間は月平均30時間削減され、約1700人が単身赴任を解消。
毎月9000人の社員がサテライトオフィスを活用するなど、リモートとリアルを融合したハイブリッドな働き方が浸透する。
また、ある大手コンサルティング会社はクライアントとの商談・打ち合わせは100%対面、
プロジェクト進行や社内作業は完全リモートという割り切ったハイブリッドスタイルを採用した。
これにより移動時間を削減し、クライアントへの集中度を高めながら、柔軟でストレスの少ない働き方を実現している。
この働き方を実現するポイントはシンプルだ。
まずリモートとリアルを、業務の性質に応じて使い分ける。
プロジェクトの開始時には全員で顔を合わせ、企画やブレインストーミングはオフィスで、
集中したい実務作業はリモートで進める。
次に時間軸での最適化。
朝はオンラインでサクッと情報共有し、日中はリモートで集中、午後はオフィスでクリエイティブなセッション、
と時間帯ごとに最適な働き方を切り替えると自然に仕事がはかどる。
人材育成にも工夫がいる。
若手はオフィスで基礎を学び、中堅はハイブリッドでワークライフバランスを取り、
ベテランはリモートで若手に経験や知恵を伝える。
年齢や役割などおのおののキャリアステージに合わせて最適な働き方を設計することで、
組織全体がスムーズに成長していく。
リモートかリアルか――。
この問いの答えは「どちらも」だ。
状況に応じた両立組織が、新しいスタンダードになる。
そして、その柔軟性こそが新たなマーケティングの武器になる。
リアルの強みを活かしながら、デジタルでの速さや効率も両立できる企業こそが、
顧客ニーズにも柔軟に対応できるだろう。
二項対立を超えた新しい働き方。
それは、未来から求められる人材を育てる土壌になる。
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