今年の潮流から見えたこと ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/12/8号
2024/12/16
「5選」という言葉がSNSで飛び交っている。
選択肢が多すぎる今、情報をすぐ知りたい人に、膨大な選択肢から最適なものを5つに絞って発信する。
「いいね」やシェアを集める情報発信の形である。
マーケティングの世界も同じだ。
技術が進化したり価値観が変化したり、膨大なデータが渦巻く中で、
未来の一手を導き出すには最注目のトレンドを整理する必要がある。
今年のマーケティング潮流の「5選」から、それを貫く中心的なテーマを探ろう。
一つ目の潮流は「信頼の分散化」だ。
かつて消費者が信頼を寄せたのは大企業や主要メディアなどの広く認知された存在だったが、
今は信頼の焦点が多様化し、小規模な発信者、さらには直接的なつながりを感じられる情報源へと移行している。
3COINSを運営するパルは、その潮流を捉えている。
全国70人超のスタッフインフルエンサーがSNSで情報発信する。
スタッフアカウントの総フォロワー数は85万人超。
彼女らが自分の言葉でブランドを語ることで消費者との距離感が縮まり、信頼関係が深まる好例だ。
二つ目は「集団から個人への消費スタイルの移行」だ。
今の消費者は「周りが持っているから欲しい」という集団心理ではなく、自分らしさを基準に物を選ぶ。
今流行のビッグシルエットのアパレルは、変化を象徴する例だ。
あえてゆとりを持たせたデザインが、自分のスタイルを自由に表現したい消費者心理に応えている。
三つ目は「即応性と瞬時の価値提供」。
現代の消費者は今すぐ欲しいニーズが強い。
スターバックスのモバイルオーダー&ペイやユニクロのセルフレジは、それに応えている。
ライブコマースのようにリアルタイムで質問に答えながら商品を提案する手法は、
瞬時に信頼と価値を提供する点で非常に有効だ。
四つ目は「お金をかけない創意工夫」だ。
限られた予算でどれだけインパクトを生み出せるか。
映画『ゴジラー1.0』は制作チームが工夫を凝らし、
ハリウッド映画の10分の1以下の低予算で観客に強い印象を与えた成功例である。
最後に挙げるのは「小規模で濃密なコミュニティ志向」。
大規模な販促より小規模コミュニティで深い関係性を築くことが、今後ますます重要になる。
6月に大垣書店が催したセーラームーンのイベントでは、
限定品の販売と交流の場を提供することでファン同士のつながりを育み、ブランドの愛着を深めた。
これら5つの潮流に共通するのは「未完の余白」だ。
すべてを作り込み語るのではなく、消費者が自由に解釈し自分の価値観を投影できる余白を提供することが、
現代のマーケティング成功の鍵となる。
ブランドが消費者に選ばれる存在から推される存在、つまり共感し応援される存在になるには余白が必要だ。
「未完であるからこそ広がる可能性」を信じ、消費者との物語を共に作ることでブランドの未来を形作る。
これが2025年のマーケティングの新しい可能性をひらくだろう。
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