「エモい」で変わる人材育成 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/12/23号

2024/12/30

「この商品、なんかエモい」。

Z世代の若者たちの間で日常語に定着した「エモい」という言葉。
感動や共感を表現するこの言葉には思いがけない歴史がある。

1999年、私はエモーショナルマーケティングを提唱し『あなたの会社が90日で儲(もう)かる』という本にまとめた。

人は感情で購買を決め、論理で正当化する――。
この単純だが本質的な気づきを伝えるためである。

その考えに沿って、当時ビジネス書の定番だった白いハードカバーではなく、
あえてショッキングピンクのソフトカバーを選んだ。

この感情の動きを表す言葉として、「エモい」は私と出版社の編集者の間で使われ始めた。
それが徐々に広がり、時を経て落合陽一さんの著書で使われたことを機に爆発的に広がった。

感情を大切にしながら、それを数値化していく。
このアプローチは、マーケティングの世界で確かな成果を生んできた。

そして今、この「エモい」にスポットを当てる手法が人材育成の世界で革新的な展開を見せている。
感情と数値の融合が組織の学習に新しい地平を開いているのだ。

先日、その最前線を目の当たりにした。
私が審査員を務めたパフォーマンスラーニングアワード2024。

会場には企業の研修担当者500人が集まり、目を輝かせていた。
昨年からわずか1年で、企業の取り組みは劇的に進化した。

最優秀賞のアステラス製薬の事例はその象徴だ。
自ら考え行動する力と自発的なコミュニケーションを重視し、新入社員に適度な裁量を与え、
早期戦力化を目指す新たなラーニングデザインを導入した。

その結果、現場配属前に自律型人材の育成を実現。
配属先での高いパフォーマンス発揮につながっている。

楽天生命保険の取り組みも革新的だ。
保険代理店向け社内資格の取得プロセスをデジタルで効率化。
模範動画や人工知能(AI)によるロールプレーを組み込んだ結果、わずか4カ月で対象者の7割が資格を取得。
さらに研修を通じて代理店同士のコミュニティが自然発生的に形成され、相互研さんの場として機能し始めている。

注目すべきは日本企業特有のアプローチだ。

欧米企業が往々にして数値を個人評価に直結させるのに対し、日本企業は数値を組織文化の設計に活用している。
だからこそ組織学習において成果を出せたわけだ。

実はこのアワードが始まる前に、主催者のユームテクノロジージャパンから相談を受けた。
これだけの成果を上げる科学的な学習を、もっと身近な文化にできないか。
パフォーマンスラーニングという言葉を、より親しみやすい言葉に置き換えられないか――と。

そこで提案したのが「パフォる」という言葉だ。

正確な定義を問われたが、あえて明確な定義は避けた。
その曖昧さこそがむしろ言葉の可能性を広げるからだ。
それぞれの現場の学習生産性を高めるユニークな取り組みが、「パフォる」から生まれていくはずだ。

かつて「エモい」がそうだったように、「パフォる」も時代を映す言葉に育っていくだろうか。

 

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