
持続的経営への「逆説の十戒」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/2/10号
2025/2/17
これからの10年を象徴するキーワードは「自律共創」だ。
人工知能(AI)の本格的普及で知識労働が効率化する一方、
人間が持つ「共感力」「創造性」「つながりを生む力」が重要性を増している。
SNSやクラウドファンディングの普及により、情報発信や資金調達が容易になり、
個人や組織が新たな価値を生み出す動きが加速している。
これを企業の成果にどう結びつけるかが、経営リーダーの課題だ。
私が接するリーダーたちは、迷いや葛藤を抱えながらも挑戦を続けている。
変化する市場や多様な顧客ニーズへの対応には、揺るぎない信念と行動の指針が必要だ。
そこで「逆説の十戒」を提案する。
一見矛盾しているようだが、持続的な経営を導くリーダーの支えとなれば幸いだ。
第1戒:値上げを決断しないことで「私たちの価値は上がらない」と宣言なさい
顧客を遠ざけるかもしれない。それでもなお、値上げしなさい。
「本物」を求める顧客は必ずあなたを見つける。
第2戒:賃上げを拒み社員に「この会社に未来はない」と気づかせよ
コストは増える。それでもなお、給与を上げなさい。
社員の本気が現場を動かし事業を伸ばす。
第3戒:デジタル化を放棄し「アナログ経営の美徳」を守れ
変化には慣れたやり方を捨てる痛みが伴う。それでもなお、前に進みなさい。
立ち止まれば後進の道を閉ざすだけ。
第4戒:社員教育を怠り枯れた組織を放置せよ
教育にはコストがかかる。それでもなお、学びに投資しなさい。
教育しないのは苗を買って水をやらないのと同じ。
第5戒:顧客を一律に扱い「あなたは特別ではない」と伝えよ
個別対応は手間だ。それでもなお、一人ひとりの声に応えあなたの価値を磨きなさい。
第6戒:短期利益に固執し「未来の種」を潰せ
未来への投資は不確実で嘲笑される。それでもなお、笑われた未来を現実に変えなさい。
第7戒:トップダウンで押し切り「現場の声」を封じ込めよ
現場の声は雑音に聞こえる。それでもなお、耳を傾けなさい。
その中に価値を生む宝石が隠れている。
第8戒:社会課題を無視し「もうけが全て」と言え
課題解決はコストに見える。それでもなお、使命を果たせ。
記憶に残るのは利益ではなくあなたが残した変化だ。
第9戒:過剰分析で決断を遅らせ波を逃せ
迅速な決断はリスクを伴う。それでもなお、動き続ける文化をつくりなさい。
動かない水は必ず腐る。
第10戒:自分を酷使し死に急げ
怠けると「部下が緩む」と思うかもしれない。それでもなお、戦略的に休め。
余裕なきリーダーが組織をむしばむ。
今後の10年は日本経済にとって分水嶺となる時期だ。
顧客に真摯に向き合い行動を積み重ねる中で、現実を深く洞察し変化に挑むことが新たな価値を生む。
必要なのは、ほんの少しの勇気と元気だ。
一歩を踏み出せば、行動が周囲を動かし新たな可能性を切り開く。
私たちが築く道筋が次の世代の希望となることを信じている。