
ビジネスイベント集客 変わる定石 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/4/20号
2025/4/28
「豪華ゲストさえ呼べば人は集まる」。そんな〝集客の定石〞が今、静かに崩れ始めている。
私が関わっている読書会を例に挙げよう。
現在はオンラインでの開催が中心で、全国のビジネスパーソンが100人以上登録・参加。
課題図書を手に、毎回熱量の高い対話が交わされている。
取り上げた書籍が後にベストセラーになることもあり、知の流れをつくる場として静かに育ってきた。
しかし、それぞれが共通の関心を持っていることは確かなのに、リアルの場となると足が止まる。
著名ゲストを招いて久々に対面で開催したら、予想と異なる反応が返ってきた。
「誰が来るかわからない場所に、ひとりで行くのはちょっと……」。
そんな声がちらほら聞こえてきて、20人前後の参加にとどまったのである。
以前なら30〜40人はすぐに集まっていた空間が、今ではどこか寂しさを感じさせる。
これは私たちだけの話ではない。
SNSを見渡すと「リアルイベントに人が集まらない」と嘆く声が、あちらこちらに見つかる。
これが今の主催者たちの本音なのではないだろうか。
「価値あるイベントなんだけどね」「すごくいい内容なんだけどね」。
でも集まらない。なぜ人は来ないのか?
理由は明快だ。情報も体験も、今やオンラインで十分に手に入る。
だからこそ、リアルに足を運ぶには、それ以上の理由が求められる。
そして今、その理由は確実に変わりつつある。
「何があるか」ではなく「誰と過ごせるか」だ。
豪華ゲストを見に行くよりも、自分がひとりぼっちにならないかが気になる。
「そこに、自分の仲間がいるかどうか」。それが、参加を決める最大のポイントになっているのだ。
イベント業界の調査でも、参加者同士の交流を求めてリアルイベントに参加する人が増えているという。
ある海外の展示会では、事前に参加予定者の一覧を一部公開したところ
「誰と出会えるかが見えるようになった」と、申込率が跳ね上がったという。
重要なのは、「この場にはどんな人が集まっているのか?」を事前に見える化することだ。
例えば「20〜30代のクリエーターが多い」とSNSで発信したり「起業志望者向けの回です」と
テーマを打ち出したりするだけでも、「自分もそこにいられそう」と思わせることができる。
さらにイベント直前に「今、こんな人たちが集まっています!」とライブ投稿すれば、
オンライン越しの「行ってみたい」がリアルな「行く理由」へと変わっていく。
イベントとは「何かを見る場」から「誰かと共に過ごす場」へと、その意味がシフトしている。
これからの時代、イベント設計の軸は「誰を呼ぶか」から「誰とつながれるか」へ。
主催者は演出家ではなく、共演者の一人として、場をデザインする存在へと進化していくのだ。
「あなたは、誰とこの時間を過ごしたいですか?」。
この問いを設計に組み込んだとき、リアルイベントは再び力を取り戻す。