会議での報告・相談NG ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/9/22号

2025/9/29

「今日から、会議の目的を変えます」。
私はそう会社のチームに宣言した。

会議の目的は、仕事を〝進める〞ことではなく〝減らす〞こと。
報告や相談をすることではなく、雑談をすること。

社員の間に一瞬きょとんとした空気が流れたが、私は本気だった。

会議に参加するたび、言葉にしにくい違和感を覚えていた。
人間関係は良好だし、進行も問題ない。

けれど、終わった後に「何も前に進んでいない」と感じることが増えていた。

報告と相談は重ねていたが、重ねるほど、なぜか行動は止まりタスクだけが増えていく。
本当にやるべきことが誰の口からも出てこない。

「報告」は既に終わった話。「相談」は誰かの許可を求める行為。
この2つが会議の主成分になっていたことで、「今ここで決めて動くこと」が組織の中から消えていた。

だから会議をまるごとつくり直すことにした。
人工知能(AI)が選択肢をいくつも出すようになって、仕事はどんどん増えていく。

だから人間ができることは、仕事を減らすこと。
報告と相談はやめて、やらないことを決める時間にする。

そして余った時間は、あえて「雑談」に使う。
これが新しい会議の方針だ。

最初は不安もあったが、初回から変化はすぐに現れた。
会議の時間は約半分に減った。その分、チームで自由に話す時間が生まれた。

例えば、最初に最近良かったことやうれしかった話をチャットで共有し、全員で空気を整える。
次に数字や進捗をざっと確認し、それぞれが「今、何を考えているか」「何に引っかかっているか」を出し合う。

チームで一番大きな壁を一緒に解消したら、「やらないと決めること」を宣言し、次にやることを一つだけ明確にする。
最後は雑談。余った時間こそ、未来のヒントが浮かぶ貴重な余白で、それをAIが記録してくれる。

つまり……雑談に始まり、雑談に終わる。

この余白の中で、時折驚くような本音がこぼれる。
普段はあえて言わないようにしてきた「やらなければならない大事なこと」が出てくる。

それは誰の指示でも会議の議題でもなく、心の奥から浮かび上がる本質だ。

相談の仕方も変えた。
誰かが「どうしたらいいですか?」と聞いてきたら、私は答えず「AIにそのまま聞いてみて」とだけ言う。

実際、それで9割は解決する。
むしろAIの方が、冷静で早くて納得感がある。

先日、社員から「業務がぐちゃぐちゃで何が正しいのか分からない」と相談された時も、
「困っている画面をスクショして、AIに投げてみて」と伝えた。

〝詰まり〞そのものを見せるだけで、30秒後には問題の構造が明らかになった。
私はしばらく画面を見つめたまま、静かにこうつぶやいた。「……もう、経営者はいらないな」

もちろん全てをAIに任せることはできない。

しかし人間がやるべきことは、はっきりしている。
それは、まだ言葉になっていない本音に気づき拾い上げること。

それは議事録にもKPIにも載らず、雑談の中にしか現れてこない。
雑談は会社を前に進める重力である。



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