経営でAIを使いこなすには ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/11/3号
2025/11/10
「すみません、情報量が多すぎて、よくわからない」。
予想外の声に言葉を失った。
私は300人超の経営幹部を前に、自ら開発したAI(人工知能)エージェント(目的に応じ考え動くAI)で、
参加者の来期の戦略をその場で構築するという実演をした。
15分後、画面には市場ポジションや成長戦略、広告コピーといった経営戦略の骨子が現れた。
会場がどよめくと思ったが、静まり返った。ようやく上がった声が冒頭の一言だった。
その数週間前、私は別の光景を目にしていた。
9月に東京で開かれた「AIトランスフォーメーションサミット2025」。
登壇したパーソルキャリアでは営業現場で生成AIを使い倒し、AI利用率90%、年間1.8億円の売り上げ増を達成。
クレディセゾンは全社員3700人にAIを展開し「業務プロセスそのものをAI前提で組み直す」と宣言していた。
同じツールで同じ時代――。この差は何か。
答えは明快だ。
AIを使い慣れていない経営幹部たちは、AIが出力したものを一字一句、契約書を精査するように読んでいた。
真面目で誠実だが、残念ながら頭の中がAI的思考になっていない。
AIの出力スピードに、人間の入力スピードが追いついていないのだ。
多くの日本企業には「現状分析型思考」が染みついている。
目の前のデータを丁寧に読み解き因果を整理し、事実を積み上げて結論を出す。
ロジカルで正確で安全だ。
しかし、AIはそう動いていない。これまで常識とされてきたビジネス思考とは逆だ。
AIは「バックキャスト思考」で動く。
ChatGPTは次の単語を予測しているのではない。
「文章がどこに着地するか」を予測しながら、逆算して単語を選ぶ。
未来を先に決めて今を設計する。
そしてAIは「スキャニング思考」で動く。
バラバラな情報の断片から、意味のつながりを瞬時に類推する。
地図を一字ずつ読む人はいない。
全体を俯瞰(ふかん)してルートをつかむはずだ。
AIを使い慣れるためには、旧来の思考OSをAIの思考を元にした新しいOSに大胆に入れ替えなければならない。
AIはあなたの思考様式を映す鏡だ。あなたが過去しか見ていなければ、AIも過去しか見せない。
「新規事業を立ち上げたいので成功事例を調べてください」という問いをよく聞くが、
未来志向の問いのはずがAIを使うと一瞬で過去の事例探しにすり替わる。
これではAIは高性能な検索エンジンにしかならない。
変われる企業は違う。
思考の前提を入れ替え、「過去はいったん忘れ去れ」という思考の自由を許している。
AI革命の本質を見抜き、そこに一目散でかけつけるために、現場に委ね、失敗を許し、試行錯誤させた。
変われない企業は、ツールだけ配って終わる。
だが思考の前提が旧式のままでは、どんなツールも生きない。
あなたの会社では「なぜ?」と問うことが許されているか。
未来を妄想することが推奨されているか。失敗した問いを笑い飛ばせる空気があるか。
ないなら、AIツールは高性能なおもちゃで終わる。




