米アマゾン大量人員削減の本質 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/11/17号

2025/11/24

業績絶好調の米アマゾン・ドット・コムが、10月末に従業員1万4000人を削減すると発表した。
なぜ稼いでいる会社が人を減らすのか。

アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は決算説明会で
「組織の階層を減らし、より多くのオーナーシップを持つ必要がある」と答えた。

そして、こう続けた。
「この決断は財務やAI(人工知能)の問題ではない。本質は文化にある」

私が注目したのは「オーナーシップ」という言葉だった。
オーナーシップとは、自責で動ける姿勢。

誰かの指示を待つのではなく「自分はどうしたいのか」「何をすべきか」を自ら判断し行動に移す。
問題が起きたときは環境や上司を責めず、自分にできることを考え動く覚悟を持つ。
自分の仕事を自分の名で引き受ける生き方である。

アマゾンが守ろうとしたのは、このオーナーシップ文化だ。
マニュアルに従い上からの判断を仰ぐ仕事、つまりオーナーシップを持たずにできる仕事は全てAIに置き換わる。

一方で「自分はこうしたい」という意志を持ち自分で責任を取る覚悟を持つ仕事は、AIには代替できない。
アマゾンは前者を減らし、後者を残したのだ。

今、日本企業のAI導入現場で社員の姿勢が真っ二つに分かれている。

片方はAIを「会社から与えられるもの」と考える。
AIを、調査・分析などの手間のかかる作業を減らすだけの「便利な作業代行者」として扱う。
こういう人は作業代行が進めばいらなくなる。

もう片方は、AIを自分の意志と行動を明確にする道具として使う。
自分の考えをAIにぶつけ、対話の中から次の一手をつかむ。
AIに課題解決策を提示させるだけでなく、「自分はどれに責任をもって、実現するのか?」と問い返す。

AIが出すのは情報であって、意志ではない。
どんな未来を選び、どんなリスクを取るのか。なぜそれを自分がやるのか。
その意志こそがオーナーシップであり、人間しかできない仕事だ。

だからこそ、私はマーケッターとして一つ提案したい。
AIの呼び名を「Ai」に変えることだ。

AIという言葉はArtificial=人工だから、どこか機械に任せる響きがある。
しかし「Ai」と呼ぶだけで、主語が「人」に戻る。

AはAugmented=「拡張された」で、その対象は「i」。
個性(individual)であり、個に宿る知性(intelligence)である。
Aiは、その個に宿る知性と意志を拡張する「拡張知性」だ。

たった1つ、小文字にするだけで視点が変わる。

AIは外側の技術だが、Aiは内側から湧き出る力だ。
AIは他責を助長するが、Aiは自責を促す。
AIは代替を進めるが、Aiは人が自分を再発見する時代を開く。
AIが奪うのは作業だが、Aiが生み出すのは誇りだ。
AIが社員を減らす時代に、Aiはリーダーを増やす。

AIが人工の知能なら、Aiは人間の知性、つまり責任と誇り、意志を持って未来を創る力だ。

i=自分を信じる力こそが、これからの時代を導く。
その旗印が「Ai=拡張知性」である。



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