日本と中国の飲食市場は「道場」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」26/1/5号
2026/1/12
2025年12月15日、「焼肉きんぐ」などを展開する外食大手の物語コーポレーションがタイ進出を発表した。
その日、偶然にも私はその展開をけん引してきた同社の岡田雅道専務執行役員と一緒に、
第10回中国TOP餐飲フォーラム・船井中国餐飲会員2025年度総会で上海にいた。
200人を超える中国の飲食店経営者が集まり、日本の飲食経営者とも交流する場だ。
私たちは、共に講演者として登壇していた。
岡田氏との対話。現場で交わされた議論の熱量。そこで私は気づいた。
日中の飲食は、次の段階へ進んでいる。
中国の外食産業は、価格競争とスピードで成長してきた。
しかし今回集まった経営者たちの関心は違う。
組織づくりや人材育成、企業文化、ブランドの持続性、海外を見据えた再現性――。
「安く・早く」ではない。質の進化だ。
中国の飲食経営者たちは、もはや価格競争の限界を知っている。
人口減少が始まり、消費者の目は厳しくなり薄利多売では生き残れない。
だからこそ組織や人、文化を磨く段階に入っている。
だから、中国の飲食チェーンは日本を「磨く場」として使っている。
例えば、中国最大手の火鍋チェーン「海底撈火鍋」は東京・新宿や横浜、大阪・心斎橋など
日本に8店舗を展開している。
コアタイムは常に満席で、改装や新規出店で再びギアを上げている。
大きな狙いは日本人の火鍋ファン獲得だが、日本市場は単なる売り場ではない。
学び直しと進化の場でもある。
一方で、日本企業が中国を「鍛える場」として使う動きも進む。
物語コーポの歩みは、その文脈で見ると象徴的だ。
同社は中国を、売り上げを上げながら業態そのものを磨き上げる場として使ってきた。
ハンバーグ専門店「肉肉大米」を中国向けにゼロから設計し、22年11月に上海で1号店をオープン。
現地の消費者の厳しい目で業態を磨き上げ、
3年弱で同国内に40店舗以上を展開し模倣が生まれるほどの完成度に高めた。
その経験を携え、今はインドネシアやシンガポールへと店舗を広げている。
中国で鍛え世界へ出るという流れが、はっきりと見える。
日中飲食の関係を「競争」や「侵出」と捉えるのは、もはや適切ではない。
日本は中国で鍛えられ、中国は日本で磨かれる。
互いの市場が互いの道場となり、次の世界展開へとつながっていく。
これは食を通じた「共進化」だ。
総会の場で強く印象に残った言葉がある。「東方の食の温度と幸福を、世界へ」。
効率や規模だけでは測れない、人の心に残る食の価値をどう世界へ届けていくか。
黒子としてのコンサルタントなので表に名は出ないが、
この思いをもって、交流の場を静かに10年続けてきたことが、今日の日中飲食業の発展を支えている。
市場とは奪い合う場所ではない。互いを鍛え合う「場」になり得る。
そして、その先にあるのは第三の市場だ。
日中が共に鍛え合った知見を携え、世界へ出ていく。
今、アジアの飲食業界はその段階に入った。




