顧客引き付ける「メンパ」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」26/2/16号
2026/2/23
メンパ? 聞き慣れない言葉だろう。
メンパとは「メンタルパフォーマンス」の略。
日経クロストレンドが2026年予測で掲げたこのキーワードは
コスパ(コストパフォーマンス)、タイパ(タイムパフォーマンス)に続く第三の指標として注目されている。
だが、これは単なる新トレンドではない。
顧客ロイヤルティーに直結する本質が、ついに表面化したのだ。
マシュー・ディクソンらの著書「おもてなし幻想」が明かした調査研究によると、
顧客を引き付けるのは感動的なサービスでも期待を上回る対応でもなかった。
答えは驚くほどシンプルだった。
「手間を必要としなかったか」。これが全てだ。
研究では「顧客努力指数」という指標を使っている。
顧客がどれだけ労力を使わずに済んだか、この数値が低いほどロイヤルティーは高まる。
つまり、顧客は感動よりもストレスの不在を選ぶ。
人間の本質は「利益獲得」よりも「損失回避」の心理が強い。
だから人工知能(AI)時代に増幅する「思考のストレス」から逃れたい――その願望が、苦労を避ける消費を生んでいる。
退職代行を年間2万人が利用し数十億円市場に育ったのも、この本質を突いたからだ。
「上司に退職を伝えるストレス」という不自由を言語化できれば、現場の企画でも成長の種はまける。
頑張らない権利が一番高く売れる時代がやって来た。
どうすればいいのか。労力をかけて新商品を開発する必要はない。
既存のサービスを、メンパの高い事業へとリポジショニングすればいい。
それが「ネーミング逆算戦略」である。
緻密なマーケティング戦略を練るより、まずはノリでネーミングから考えてみる。
発想を引き出すトリガーワードは、たった5つでいい。
「まるっと」「代行」「凪(なぎ)」「リセット」「余白」。
これらを組み合わせるだけで、顧客の気づかない不自由が言葉になる。
不動産業なら「まるっと移住パック」。
飲食店なら「インバウンド多言語代行」。
温泉旅館なら「凪を買う宿」。
キャリア支援なら「人生リセット権利」。
コワーキングなら「余白時間サブスク」。
全て、既存の資源を生かし顧客の手間を減らす仕組みに変えるだけだ。
ネーミングを決めたら、顧客が言葉にできない「面倒くさい」を特定し最小限のプランを設計する。
そこまでできたら、1件でいいから受注して回す。完璧を目指すな。さくっと動け。
地域ビジネスなら、社長が頑張らなくていい仕組みに転換する。
グローバルBtoB(企業間取引)なら、海外駐在員のビザ手続きや多言語対応を丸ごと代行し、担当者の負担を消す。
どちらもメンパを軸にすれば商機が見える。
だが最も重要なことは、あなた自身のメンパが先だということだ。
顧客にメンパを提案する前に、まず自分の苦労を回避せよ。
考えすぎて動けない決定疲労が、現場のリーダーをむしばんでいる。
トリガーワードを選んで、ネーミングを即決し、小さく始める。
そうして生み出す思考オフの状態こそが、AI時代に必要な心の凪だ。




