宇宙大航海時代の幕開け ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」12/17号
2018/12/25
2019年の注目は「宇宙ビジネス」だ。
今年、安倍政権が民間の宇宙産業に1000億円の支援枠を新設したが、世界は、日本のはるか先を進んでいる。
リチャード・ブランソン氏のヴァージン・ギャラクティックは早ければ来年にも宇宙旅行を実現させる計画だし、
アマゾンのジェフ・ベゾス氏が設立したブルー・オリジンも、来年から宇宙旅行を20万ドル程度から販売するという。
イーロン・マスク氏のスペースXはZOZOの前沢友作社長が搭乗予定の月旅行に加え、
22年以降に超大型ロケットによる長距離旅客輸送に進出すると発表。
宇宙空間を通過し、世界の主要都市を約30分で結ぶという。
商品ライフサイクル分析の観点でみても、宇宙旅行は夢ではなく、実用の段階だ。
私は35年前後から「宇宙大航海時代」に突入すると予測する。
これは中小企業にも無関係な話ではない。
「中小企業でも宇宙ビジネスに参入できる」と考える経営者がいる。
ASTRAXの山崎大地氏だ。
山崎氏は宇宙ウェディングや宇宙カメラマン、宇宙葬儀、宇宙美容室など、
地球上のビジネスに「宇宙」という言葉をつければ、ほぼすべてが事業化できると語る。
急速に宇宙旅行が広がれば、富裕層の旅行者にそうしたサービスが広がるという。
山崎氏は自らサービスの創出を図る一方、将来宇宙ビジネスに参入したい企業に対して、無料で顧問を引き受けている。
これは奇抜な思いつきではない。
山崎氏は国際宇宙ステーションの運用管制官や実運用訓練生など、宇宙事業の本流を歩んできた人だ。
宇宙分野で後れを取った日本企業が、サービス業で巻き返しが図れないかと参入したという。
「宇宙ビジネスがお金になるなんて夢物語では?」。
そう思うのは無理もない。
実際に宇宙ビジネスの依頼がくるのは先のことだ。
しかし、会社に与えるメリットは小さくない。
山崎氏は早ければ来年にも宇宙旅行に行く予定なので、
実現すれば「宇宙ビジネス事業部の顧問が今、宇宙にいる」とPRできる。
さらなる大きなメリットは「仕事に夢が持てる」こと。
日常の仕事の場で宇宙事業の話をすると、視点の高い未来の話に一気にシフトできる。
未来から逆算すれば、宇宙・地球規模の大きな視点で自社のビジネスを考えられるようになる。
リスクもほとんどないだろう。
「宇宙ビジネスに参入」と言うのはタダだし、実現しなくても笑い話で済む。
むしろ最大のリスクは、社員が集まったとき、目先の金や社内人事の噂話しかできないことだ。
今や少しビジネスモデルを工夫するだけで一瞬で何億円も調達でき、宇宙大航海時代も間近なのに、
日常のお金や人事の話しかできない会社に、若手社員が夢や希望を持てないのは当然だ。
かつて、経営者は大きな夢を描き社員に見せてきた。
今は夢に直結する仕事がたくさんあるのに、経営者は夢を見せているだろうか。
頭のほうが現実よりも後れを取らないよう、社員も経営者自身も参加できる夢を描くことが求められる。