選ばれる分譲地 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/1/7号
2019/1/14
美意識が地域経済を持続的成長へと導く――。
高尚な話でありながら地に足がついた事業の話をしよう。
「パレットコート北越谷 フロードヴィレッジ」。
埼玉の元荒川に沿った水郷の地に、64棟の北欧スタイルの住宅を建設した大型分譲プロジェクトだ。
ポラスグループの中央グリーン開発が手がけ、2018年10月の時点で40棟が売れた。
「街並みを美しく整えて売る戦略」に見えるかもしれないが、
地道な取り組みの裏にあるのがコミュニティーづくりだ。
分譲開発の企画が持ち上がった当初から、住民参加型のコミュニティーづくりを始めた。
分譲地はみんなのものという発想の下、
どうしたら住みやすく持続可能なコミュニティーへと育てるかを模索するために「未来づくり会議」を発足。
会議に参加する「まちづくりサポーター」を募集して、
入居者だけでなく、地元住民や近隣の文教大学の生徒、行政からの参加者を巻き込んだ。
現在は、埼玉県越谷市の助成金も受けて、官学産民が連携したプロジェクトへと発展。
入居者交流会や親子で参加できる植栽ワークショップ、
住民企画のイベントを中央グリーン開発がサポートする「マチトモ」制度など、
住民参加のプログラムが次々と動き出す。
こうしたコミュニティー活動は、手間ばかりかかって企業の役に立つのか、という議論になりがちだ。
しかし、同社の社員たちは、手応えをつかんでいる。
住民同士のふれあいがある分譲地は、足を踏み入れたとたん、帰ってきた感覚があるという。
道端にもゴミが落ちていない。
ところが、ふれあいが少ない分譲地は、寂しい感覚がつきまとう。
電灯が切れたままだったり、ゴミが目立ったりする。
だから、住民の出入りが激しいという。
コミュニティーのある分譲地は資産価値が落ちにくい。
評判が良いと口コミで広がり、物件に空きが出てもすぐに売れるからだ。
フロードヴィレッジの好調な販売状況とコミュニティーの存在は無関係ではないだろう。
日本の住宅の上物は資産価値がつかないといわれるが、
価値がつかないのは、コミュニティーを設計してこなかったからではないか。
それを示唆する取り組みである。
コミュニティーづくりのような、事業採算性が見えず、手のかかる取り組みができるのは、
親会社のポラスのDNAもあるだろう。
南越谷の阿波踊りは70万人を動員する日本三大阿波踊りだが、
提唱し主催するのがポラスなのは知られていない。
創業者が徳島から開発途上の越谷の地に越してきたときに
「安全で誇りの持てる街をつくるためにはお祭りが必要だ」と阿波踊りを持ち込んだ。
高齢化・人口減社会のなかで選ばれる分譲地になるためには、地域の魅力を引き出した住空間はもちろん、
住民の魅力を引き出しながら何代にも渡って住み続ける“時間”のデザインまで取り組むことが必要だ。
では、空間と時間をプロデュースするのに欠かせないものとは何か。
それは「人間として美しい生き方とは何か」という美意識なのである。