自然食品のプロ、ジェラートに挑戦 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」2/12号
2018/2/18
未経験のジェラートで世界に挑戦すると決め、新業態に取り組み始めてから、10カ月間。
自然食品分野で経験を積んできた中川信男さんは、今度はジェラートづくりに、夢中になった。
その結果、2018年1月22日、イタリア・リミニで開催された
世界最大、世界最難関のジェラートコンテストの2部門で受賞を果たした。
日本のジェラート職人が個人でエントリーし、
2つのトロフィーを一度に獲得したのは、これまでに例がないという。
世界的な受賞というだけなら、よくあるニュースだろう。
しかし、驚くのは、乳製品を使うのが伝統であるジェラートづくりで、
牛乳や生クリームなどの動物性素材、合成フレーバー、食品添加物を一切使わなかったことだ。
入賞した作品は「ほうじ茶と抹茶のマリアージュ」と
「ゆずとみかん、オレンジのソルベ ひまわりハニーとともに」。
ともに、ほうじ茶やゆずなどの日本の食材を生かしたユニークな風味であり、
乳製品を摂らないビーガン(完全菜食主義者)でも楽しめる。
それ自体が、ジェラートに新しい市場セグメントを開いたという驚きをもたらした。
乳製品などを使わないジェラートづくりの原動力は、
食に対するアレルギーをもち、乳製品を口にできない子たちを見てきたことだ。
自然食品業界で18年の実績を積んできた中川さんは、
日本の食材を駆使して乳製品などを用いないアレルギーフリーの食品を数多く開発し、
アレルギーを持つ人やビーガンの人に支持されてきた。
そのノウハウを用いてジェラートを試作すると、
アイスを食べたくても我慢してきた子が「おいしい」「おいしい」と無心になってほお張った。
それを見て母親が涙する姿にも勇気づけられた。
この領域で挑戦すれば、日本の味、そして食文化を、世界に一層広げられると確信。
中川さんは、動物性素材や食品添加物などを一切使わない、
本場に通用するジェラートづくりに没頭した。
10カ月後、そのこだわりを世界が評価した。
ジェラート自体の完成度が高かったのは、もちろん。
しかし受賞の裏で彼には、もうひとつの、こだわりがあった。
それは審査員に評価されるためではなく、
偉大な食文化を生み出したイタリア人に敬意を表すために、ジェラートを作ったことだ。
製造過程で余ったジェラートは一切捨てず、
保冷剤を使って、重くても手で運んで、宿泊先のホストにまで振る舞った。
世界に挑戦することは、日本ブランドをもってすれば、可能かもしれない。
しかし今、それよりも大切なのは、挑戦する過程で「何を持ち込むか」だ。
中川さんのように、相手の文化に敬意を表するという姿勢を持ち込まなければ、
日本商品は一時的に広がりはしても、すぐに飽きられるだろう。
舌は癒されても、心は癒されないからだ。
ジェラートづくりを始めた直後に開店した「プレマルシェ・ジェラテリア」は、
いまだ京都に1店を構えるのみ。
世界に広がり始める前に、こうした日本人職人のこだわりは、
日本人がもっと注目・評価すべきではないだろうか?
▼ 本事例に関連し、世界市場で当てるために参考になるのが、
神田昌典による洋書解説『Game Changer』。
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