ロイヤルオートの「逆算」接客 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」12/25号

2018/1/9

顧客は合理的な判断を下しづらくなってきている。

米ノースウエスタン大学が実施したネット調査で、
ふわふわしたソファと頑丈なソファ、2つの画像を見せて、どちらが欲しいか尋ねた。

1回目の調査では頑丈なソファを選んだ人が58%。
2回目にふわふわしたソファを2種類用意し3択にしたら、
77%の人がふわふわしたソファを選んだ。

つまり、買い手は「本当に欲しいモノ」ではなく
「目立つモノ」を選んでしまったのだ。

一貫性のない判断の原因として考えられるのが、人間の情報処理スピードの限界。
情報量が多すぎるため、忙しく選択を迫られると本当に欲しいものが判断できなくなる。

そこで、買い手が本当に欲しいものをじっくり聞くように
売り手がアプローチしたら、どうなるか?

試した結果、来店客の成約率が3割から6割へと倍増させた会社がある。
長野県松本市のロイヤルオートサービスだ。

同社は、新古車を中心に販売する地域有数の自動車販売会社。
来店客が欲しい車を、言われるままに売っていたのだが、
2年ほど前から家族のライフスタイルをじっくり聞き、
ニーズをつかんだ上で最適な車を提案することに切り替えた。

顧客が欲しいという車を売って何が悪い、と思うかもしれないが、
実は、その売り方だと、購入して即売却となるケースが目立ってきた。

「自分の趣味で選んだ車を買い、妻とケンカ」
「子供が生まれるのに、安さにつられ、子育てに使いづらい車を買った」などが典型。

買ってから初めて、本当に欲しい車のスペックや機能に気づくからだ。

そこで同社が心がけたのが、「家族の幸せな未来から逆算する」こと。
車を買って家族が得たいメリットを、来店客と話し合うようにした。

すると顧客は、自分以上に自分の家族のニーズを考えて提案してくれる店員を深く信頼。
成約率は一気に上がった。

さらに、ロイヤルオートはこの売り方は、自動車以外にも使えることに気づいた。
そこで始めたのが「おうちの相談窓口」だ。

顧客からライフスタイルを聞き出し、家族にとってベストな家と住宅メーカーを提案する。
メーカーからの販売謝礼を収入源とし、顧客は無料で相談できるようにした。

すると家など売ったこともない20代の社員が家を売れるようになった。

売り手が、買い手以上に広く長い視野で、買い手の幸せを想像できたとき、
買い手と売り手とは信頼でつながる。

すると、成約率が上がるばかりか、住宅や保険なども売れ始めた。

社員の定着率も高まった。
マニュアル通りの接客は、一時的に売り上げを伸ばせたが、
若手や女性社員が次々と辞めてしまった。

今後、人間の仕事の大半は人工知能(AI)に置き換えられるといわれる。
近い将来、アマゾンで車や住宅がどんどん買われるようになるかもしれない。

しかし、その一方で、愛を持ってサポートする、身近な人間が、
今以上に必要になるのではないか

なぜなら人間は合理性だけでは満足できず、
思いやりを必要とする、非合理的な生き物だからである。

 

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この記事に登場している企業は神田昌典の次世代マーケティング実践会(*略称The実践会)の会員様です。
The実践会は、ついつい神田が記事にしたくなるような実践を日々されている経営者・経営幹部・地域のリーダーのコミュニティーです。

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