ビジネスに生かす物理法則 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/5/27号
2019/6/3
画期的な書籍が出版されたので紹介したい。
エイドリアン・ベジャン氏の『流れといのち』である。
べジャン氏は、昨年、米国版ノーベル賞といわれる「ベンジャミン・フランクリン・メダル」を受賞した物理学者だ。
マーケッターである私が、なぜ物理学者の最新著作に熱狂するのか。
それは、博士が提唱する「コンストラクタル法則」を理解すると、
商品やアイデアを人々に広げていくうえで「何が大切であり」「何が大切でないか」を直感的に判断できるようになる。
その結果、ビジネス戦略立案の精度を高めていけるからだ。
この法則によれば「生物・無生物を問わず、すべてはよりよく流れるかたちに進化する」という。
河川の流れ、肺の気道、稲妻、森林、あるいは雪の結晶。
一見、無関係に見えるが、実は、これらのデザインは、極めて似通っていて、樹状構造になっている。
べジャン博士によれば、それは偶然ではない。
よりスムーズに流れるために、デザインが進化した結果だという。
それは自然現象だけではなく、人間活動にも当てはまる。
世界記録を更新しつづける水泳選手や陸上選手の身体的特徴、さらには年々改善される航空機のデザインも、
このコンストラクタル法則に沿っていることが立証されている。
流れをスムーズにするために、すべてが進化していく――。
この知識はビジネスで結果をあげる上でも大いに役立つ。
なぜなら始めからスムーズに流れるかたちを目指して、デザインすればいいからだ。
それは、既に日常で目にすることができる。
一昔前のノートパソコンはファンの音がブーンと鳴ったが、今は無音だ。
放熱するための回路が、コンストラクタル法則に基づいてデザインされるようになったからである。
マーケッターにとっても、この法則の知識は非常に役に立つ。
迷った際の判断が容易になるからだ。
商品・サービスを広げる過程で、情報がスムーズに流れるよう設計しておけば、
遅かれ早かれ、必ず市場から選ばれ、定着していく。
たとえば、新しい商品・サービスを生み出すうえで、スマートフォンは欠かせないが、
そのインターフェースは、情報がスムーズに流れるようにデザインされているのか?
あるいは、決済時にユーザーが強いられる作業は滑らかなのか。
こうした情報とお金の流れをスムーズにしていけば、顧客に選ばれるわけだ。
ビジネスで難しい決断が必要な時、賢人は「論語」に戻って判断するといわれる。
もちろん人間関係の問題では、論語の知識が非常に重要だが、
高度に情報化された社会において、一時的な変化に惑わされることなく「流れ」を正しく判断する際には、
論語だけでは物足りない。
そんな時にはコンストラクタル法則も参考になるのではないか。
世にあふれる知識の中で、これほど本質的な判断を助けてくれる知見は、なかなかない。
改元のタイミングで翻訳されたのには、非常に大きな意味がある。
未来に、スムーズな大河を生み出したい全てのリーダーに読んでほしい1冊である。
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