マーケッターが変えた選挙 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/6/9号
2019/6/16
「ポリティカルマーケティング」と呼ばれる手法が米国の政治を大きく変え、
今や6000億円を超える市場を作り出している。
その効果のほどが分かる一例が、2006年のコロラド州知事選挙だ。
この時、民主党が選挙戦を制する大きな要因になったといわれているのが、
支持団体が100万人に出した、たった1通の手紙である。
「コロラドレター」と呼ばれる、その手紙の中身は、候補者の資質や政策について熱く語るわけではない。
見た目はまるで役所から送られてきたような、素っ気ない白い封筒。
差出人がわからず、ゴミ箱に直行しても不思議ではない。書かれた内容も
「前回の選挙ではご投票ありがとうございました。明後日の投票日の予定をご確認ください」ということだけだ。
しかし、この素っ気ない手紙は、民主党に投票する人を大幅に増やすのにつながった。
ある博士課程の学生が、何年にもわたる実験を積み重ね、
最も反応率の高いレターの形式は素っ気のない内容だと突き止めた。
そしてその手紙を、民主党の支持者が多い地域や年齢などを精密に選別して、100万通出したのである。
その結果、民主党への投票を促すことなく、民主党寄りの人の投票を増やすのに成功した。
新しい票の数は約2万5000人で、これが勝敗を分けたのだ。
こうしたポリティカルマーケティングが盛んになった一因は00年の米国大統領選だ。
ブッシュ氏があまりにも僅差でゴア氏を破ったことから、一気に選挙のやり方が変わった。
それまでは、マス広告や大イベントが選挙活動の主とされてきたが、
ブッシュ、ゴア両氏の大統領選以降は、支持者が最も多く乗るバス路線に広告を出したり、
地域の小さなパブに100人を詰め込むイベントを開いたりしたほうが効果的だと算出した上で、
両陣営が、選挙戦を設計し始めた。
ネット選挙が解禁となると、大統領選のオバマ陣営、特に12年の再選挙の時は、
反応率の精度を競う「A/Bテスト」を繰り返し行って選挙資金を稼ぎ、また政策の重点配分を行っていった。
16年に当選したトランプ氏も、
フェイスブックの社員を常駐させ、最新の広告機能を活用できるように指導してもらうなど、
リサーチに基づく周到な選挙活動をしていたことが、政治学者からも指摘され始めている。
要は「社会的リーダー」という商品を創り、
その応援者を増やしていくマーケティング活動こそが政治になってしまったわけだ。
ポピュリズムといわれてしまうかもしれないが、その本質は、
市民が何を望んでいて、どのようなリーダーを輩出すべきかという活動なのである。
今や当たり前になったポリティカルマーケティングだが、
実はそのベースになっているのが「ダイレクトマーケティング」だ。
政治ではなく、ダイレクトマーケティング分野で経験を積んだ人が、選挙参謀になった結果、
この分野が進化し始めたのである。
マーケッターの仕事の領域は、今や、リーダーづくり、そして国づくりにも浸透しはじめている。
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