生活行動、デジタルで一体化 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/6/24号

2019/7/3

「デジタルオーバーラッピング」という言葉を知っているだろうか?
「買い物やレジャーなどリアルな生活行動も、ネットに包み込まれ、デジタルで一体化される」といった概念だ。

デジタルオーバーラッピングは、サービスに革命を起こす。
すでに中国の小売業界では現実になっている。

アリババの運営するスーパーマーケット「フーマーフレッシュ」は、その好例だ。
デジタルオーバーラッピングによって、日々の買い物の手間を解消している。

店舗は巨大な倉庫のようで、商品はネットでも店舗でも買える。
野菜や魚などの生鮮食料品は、ネットで選んでも、自分の目で見て選んでも構わない。

大きな強みは、半径3キロメートル以内なら30分以内で宅配してくれる点だ。

エビやカニは、いけすの中から生きたまま運んでもらえ、
湯煎や唐揚げなど調理して運んでもらうことも可能。

代金はアリペイなどのQRコード払いで現金は不要だ。

この売り方の結果、坪あたりの売り上げは、既存店の3.7倍に。
来店客の半分が宅配を希望するようになった。

アリババの要人によると、フーマーが出店すれば地域住民が増え、地価が上がるので、
不動産開発会社から出店要請が相次いでいるという。

アリババは、フーマーのようなECプラットフォームをショッピングモールにも導入。

膨大な購買データに基づき、近隣住民が求める商品を中心に品揃え。
お客様のサイズがなければ、すぐに自宅に運んでいる。

さらにアリババのグループ会社、Tモールが取り組んでいるのが「高級車の自動販売機」だ。

事前にスマホで予約した後、巨大な立体駐車場のような“自動販売機”の前で、
顔認証をすると車の鍵がもらえ、3日間自由に試乗できる。

試乗期間中に気に入ったら、そのままスマホで決済できる。
アリペイで信用が高い人なら、保証金も要らない。

「売れるの?」と思うかもしれないが、初めにボルボを売ると二百数十台がわずか数分で完売。
次にマセラッティを売ると年間の販売計画の台数がわずか数分で売り切れたという。

こういう話を聞くと、多くの日本人社長は、頭を抱える。

日本のはるか後方にいたはずの中国の技術革新が、
もはや追いつけないレベルまで先を行っていると気づくからだ。

高齢化社会は、社会全体の変革のスピードが遅れる。

能力のある一部の人が革新的なことを始めても、社会全体が保守化し変化を嫌うので、
浸透が遅れ、技術革新の速度が遅くなる。

短距離走で50代が10代に勝てないように、成熟社会は若い社会には勝てない。

しかし、デジタルオーバーラッピングされた社会は良いことばかりではない。
利便性と引き換えに不合理が生じることは必ず起こる。

例えば、あまりに便利になりすぎて、家に引きこもれば、出会いの場がなくなる。
町の均質化も加速するだろう。

今、企業経営者がすべきなのは、成熟社会の壁を受け入れながら、
国家百年の計ならぬ「企業百年の計」を掲げることだ。

日本の将来を長距離走で考えれば、まだ活路は開ける。

 

 

実学M.B.A.
いまなら初月500円でお試しいただけます。
詳しくはこちら



MAIL MAGAZINE・SNS
メルマガ・ソーシャルメディア


メルマガ一覧を見る