リモートワークしてみたら ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/4/11号

2021/4/12

このところ、立て続けに、社員の子供の数が増えている――。

私の会社で1年間、完全リモートワークに切り替えた結果である。
当社の事情は一般化できないが、リモートワーク化で育児フレンドリーな環境を提供できるのは明らかだ。

社員からは、「リモートワーク環境を整えてくれたおかげで、夫婦で育児や家事を分担できた。
安心して2人目を出産できると、妻に感謝された」「育児休暇後も仕事に戻りやすい」といった声が上がっている。

正直に言うと、社員にここまで心から感謝されたことは23年間会社を経営してきて初めてだ。
子供が育てやすい環境を整えることで、これほど喜ばれるとは思わなかった。

当社では、リモートワーク化で大きな変革が次々と起きている。
ジョージアに住む2人の人材や副業人材が幹部会議に参画するようになり、スリランカ人の有能なメンバーも加わった。

大学に通いながら活躍する人もいる。
正社員やフリーランスの枠を超えて、同一職種同一賃金の新しい会社へと生まれ変わったのだ。

1年前、当社に関わる人員は20人ほどだったが、いまや40人ほどに増えている。

デメリットがあるかといえばまったくない。
事務所を使わなくなったので、昨年末に閉めたのだが、とくに不自由もなく、いいことずくめだ。

しかしリモートワークが一般に浸透したかというと、そうでもない。

都の調査によると、今年1月の都内企業のテレワーク導入率は57.1%。
緊急事態宣言期間中にテレワークを実施した社員は5割、とほぼ横ばいだった。

仕事のやり方を大きく変えにくい業種は仕方がないが、リモートワーク化できるのにしていない会社もまだ多い。
そうした会社は思いきって試すことをすすめたい。

まずは、社員一人ひとりにあてがわれた事務所の机をなくすことだ。
会社に自分の場所があると思うから、週何回か行こうとなる。フリーアドレスにするのが現実的だ。

代わりに、家を職場にするためのサポートを提供するといい。
私の顧客は長時間座っても疲れが少ないパソコンチェアを自宅用として全社員に提供した。

オンライン会議をすると、社長も社員も高級そうなイスに座っている。
それだけでも、社員は「大切にされている」と感じる。以前よりも帰属意識や一体感が生まれているという。

「家だと子供がうるさくて仕事どころではない」という人もいるが、自然と慣れるものだ。
子供や育児中の親をペルソナにして、ブレストをすれば、子供がいることをプラスに転換できるだろう。

リモートワークを導入していた会社も、緊急事態宣言の解除で、元の働き方に戻そうとしているかもしれない。
しかし、それは社員にとって働きづらく、育児がしにくい環境に逆戻りすることを意味する。

どこでどういう働き方をするのかはトップ以外は決められないことだ。
経営者は、新しい命を生み出す環境を整えられる立場にいることを、ここで自覚しておきたい。

 

 

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