地域生活・幸福基盤事業 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/8/9号

2021/8/22

コロナ禍で宿泊客がいなくなったビジネスホテルが、お弁当店を開業した。
埼玉県幸手市のホテルグリーンコアを運営するナビ(同県白岡市)が6月にオープンした「コアラ亭」だ。

地域の食材をふんだんに利用した、人にも環境にも優しいお弁当。

開店初日に100食が1時間で完売した。
快調な滑り出しだ。

ホテルグリーンコアは一夜にして新しい事業を生み出せるようになったわけではない。
これまでさまざまな挑戦を積み重ねてきた。

始まりは、近隣に全国チェーンのホテルが出店してきた時に、ベッドのないビジネスホテルを作ったことだ。

浴室やエアコンなどの設備はどのホテルも大して変わらない。
何で差異化するかを考え、ベッドを置かないことにたどり着いた。

フローリングの床に掘りごたつ式の机を備え、部屋を自由に使えるようにした。
すると、ビジネスホテルながら家族客が宿泊したり、地域の子連れ客がママ会で昼間に利用したりするようになった。

さらに差異化するために、お客様からの要望を聞いて、徹底的にホスピタリティを向上させた。
おいしい朝食の評価が高かったので、農家から確かな食材を直接仕入れ、健康に配慮する朝食を有料で提供し始めた。

有料化に反対の声もあったが、宿泊客だけでなく地元のお客様が1日300人も朝食を食べに訪れるようになった。
一時は予約制になったほどだ。

加えて、ルームサービスは地域の飲食店から出前を取れるようにするなど改革を進めた結果、
常に9割の稼働を誇る地元で評判のビジネスホテルになった。

こうして培った経験とホスピタリティを生かし、今度はお弁当店を出したわけだ。

相模女子大学の栄養学の学生と共に障害者施設でケーキづくりをしている「3pm さんじ」の横田美宝子氏に協力を要請。
原材料にこだわりながら見た目もカラフルで毎日食べても飽きないお弁当を作った。

バリエーションを増やすと調理工程が複雑になるが、横田氏のノウハウを導入し簡素化に成功。
料理人としてのトレーニングを積んでいないホテルスタッフでも、短時間で均質な味を作り出せるようになった。

さらにこの店を支えたのが、地元の著名インスタグラマーをはじめとした、グリーンコアファンだ。
インスタ映えのする美しいお弁当をインスタグラムで拡散したことで、注目を集めることにつながった。

もちろん、ホテルと比べれば、お弁当の売り上げは微々たるもの。
しかし、この挑戦によってスタッフは新しい仕事を生み出す経験を積めている。

これは他業種でも重要だ。
なんといっても、地域のホテルが中心になって、地域に新しい仕事を生み出せた。

私は、こうした地元に新しい仕事を生み出す事業を、「地域生活・幸福基盤事業」と呼んでいる。

全国どこにでも地域を問わず拡大できる年商100億円のベンチャー企業をつくることも重要だが、
地域生活に密着した年商1億円の事業を100件つくるほうが、
高齢化社会として具体的な見本を世界に示せるのではないかと考えている。

 

 

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