「デジタル庁」成功のカギ ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/9/20号
2021/9/27
9月1日にデジタル庁が発足した。
その目的は「デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、
デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げる」。
菅義偉政権の政策の中でも特に重要な位置づけだ。
ただ、デジタル変革は、民間企業でも組織内の既存勢力の猛反発を受け、ことごとく頓挫している。
行政で同じことが起きてもおかしくはない。
旗振り役だった菅首相が退任見込みなのもマイナス要素だ。
では、デジタル庁による行政デジタル変革はどうすれば成功するか。
私は、意外なところにカギがあると考えている。
そもそもいかなる組織でも、デジタル変革の本質は「縦型組織を横型組織に変えること」だ。
デジタルを使ったサービスの開始には、最初にデータを統合することが欠かせない。
たとえば、マーケティングでは見込み客を集めるリードジェネレーションから
成約後の顧客をサポートするカスタマーサクセスまで、各部署が連携し合ってデータを共有。
すると、顧客に手厚いサービスができ、LTV(顧客生涯価値)の最大化を実現できる。
同様に行政の場合も、あらゆる省庁や部署がデータを連携することで、
ゆりかごから墓場まで一貫して支援する行政サービスが可能になるわけだ。
デジタル庁の役割は、各省庁のデジタル担当者を統括し、強力にリードすることだ。
だがデジタル庁の600人の職員と各省庁の担当者を同じ方向に向かせるのは一筋縄ではいかない。
その難題をクリアする妙案が、創設が検討されている「こども庁」との連携だ。
まずは物理的にデジタル庁とこども庁を同じ建物の中に同居させる。
どちらも省庁をまたぐ横断的組織を目指しているので、相性は良い。
特に働きかけなくてもタッグを組むようになる。
子どもやその親に何かデジタルサービスができないか、と自然に思い至るはずだ。
幸いなことに、現在は文部科学省の「GIGAスクール構想」で
2023年度までに全小学生と中学生に1人1台タブレット端末を配る計画だ。
あまり議論されていないが、実はこのタブレットこそが、デジタル変革の重要な突破口だ。
一家に一台タブレットがあれば、親子に対してさまざまなサービスを提供できる。
教育だけでなく、困窮や引きこもりなどあらゆる面でサポートする。
つまり社会問題を解決する様々な方法をスピーディーに届けられるようになるのだ。
さらに「親子のためのデジタルサービス」という求心力のある象徴があることで、皆が同じ方向を向きやすい。
強力なリーダーがいなくても、各部署のメンバーが連携するようになり、横型組織の実現を強力に後押ししていくだろう。
横型組織ができれば、あとは親子だけでなく、全国民にサービスを提供できるようになるはずだ。
子育て世代にスポットを当てるマーケティングの知恵は、行政デジタル改革にもきっと役立つと信じている。
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