アナログ事業でリスキリング ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/4/10号

2022/4/18

「リスキリング」という言葉が最近よく使われるようになっている。
世の中の変化に対応するために新たなスキルを身につけるという意味だ。

そういうとプログラミングやデジタルマーケティングなどのデジタルスキルが思い浮かぶが、
自分はついていけないと思う人も少なくないだろう。

そうした人に、デジタル以外の新たなスキルを身につけられる機会を提供して、
支持されている事例が、「ベビトル」だ。

新生児を撮影するニューボーンフォトグラファーと、我が子を撮影してほしい親をマッチングするサイトである。
衣装や撮影小物もレンタルしている。

これだけでも十分に面白いサービスだが、実はもう一つ特徴がある。
カメラマンを育成していることだ。

キシモトという兵庫のカメラ店がカメラ教室を開催していて、
生徒たちに喜ばれる仕事がつくれないか、と考えたのがはじまり。

現在はオンライン講座やリアルの撮影同行などをセットにしたニューボーンフォトグラファーの養成スクールを運営し、
卒業するとベビトルのカメラマンとして働けるようになる。

つまり、仕事に直結するリスキリングができるわけだ。

新生児の撮影は、幸せに満ちている家族との時間を過ごせるので、撮る側も癒やされる。
地域の家族の写真を撮ることによって、愛郷心も養われるという。

収入以外の喜びも味わえることから、教室にはパートタイマーからエグゼクティブまで様々な人が集まっている。

子供の運動会の写真を撮るために教室に参加してニューボーンの仕事を始めた人もいれば、
駐在先のフランスで子どもを撮りたいと始めた人もいる。

これまで手がけていたアナログな写真館の業務を発展させ、
デジタルでのプラットフォーム事業を生み出した好例といえるだろう。

注目したいのは、ベビトルの仕組みは他の業種にも応用が効くことだ。
仕事を簡略化し、細切れ時間でも働けるようにすることで、誰でも参入できるようにする。

食事の宅配を誰でもできるようにしたウーバーイーツと同じ仕組みだ。
そんなプラットフォームをつくれば、スキルを身につけたい人も仕事をお願いしたい人も集まってくる。

プラットフォーム事業ができそうな仕事は少し考えただけでも数多く出てくる。
介護、引っ越し・片付けなどの作業、清掃、ペットの散歩要員、獣医師をサポートする動物看護師……。

高齢化が進むなか、普通の生活を維持するためのケアをする人材は、どこも不足している。

そうした仕事をプラットフォーム化すれば、
人手不足が解消される上に、地元の仕事が創出できて経済を活性化させられる。

もちろん人材もリスキリングできるわけだ。
ウーバーイーツのようにチップ制度を導入すれば、働き手の励みにもなるだろう。

リスキリングとは、AIと競争するためのスキルを磨くことだけではない。
本業でいつしか失っていた本当の人間性を回復できるスキルを身につけることも含まれる。

アナログな事業を手がけている企業こそ、スキルが得られる場を作り出せる可能性を秘めている。

 

 

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