高収益生む「顧客カレンダー」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/9/19号
2022/9/26
マーケッターが最高経営責任者(CEO)になり、経営を高度に洗練すると、どうなるだろう?
その答えをわかりやすく見せてくれるのが、木下勝寿さん率いる北の達人コーポレーションだ。
主力事業はオリジナル化粧品・健康食品などを販売するEコマース事業。
社員数70人で東証1部(現・プライム)上場を果たし、時価総額1000億円企業を1代で築き上げた。
営業利益率29%は、上場しているEC企業平均の12倍と驚異的だ。
その木下社長の著者「ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティング」を課題書にして
読書会を開催したところ、200人近くのマーケティング関係者が集まった。
専門家同士の突っ込んだ話を木下社長から伺ったので、大切なポイントを共有しておこう。
高利益率を生み出す鍵は経営者が現役マーケッターであり、広告運用をすべて内製化しているからだ。
創業当初から運用している広告を最適化させる独自ノウハウを、自社開発した。
普通、企業は売り上げを最大化するために、
1件の見込み客を獲得するための費用をできるだけ増やそうとする。
それに対し、同社では許容できる最大の費用を設定。許容値を超えると、自動的に広告出稿が停止される。
許容値の範囲内であれば広告は全て出せるので、利益を出しながら顧客数を最大化できるわけだ。
とくに目からウロコだったのが、顧客生涯価値(LTV)の計算法だ。
長く顧客に購入され続ける工夫を積み重ねることで、企業利益を最大化していくという考え方だが、
肝心のLTVを正確に計測できる既存のシステムは少ない。
北の達人ではどう算出しているのか。
通常は「1顧客あたりの平均購入額」を年間で考えるのだが、
それだと1月1日から買い始めた顧客と12月31日から買い始めた顧客が混じり、正確な実態がつかめない。
そこで同社は新規顧客になった日に、顧客ごとのカレンダーを自動的に作成する。
顧客期間が1カ月、3カ月、半年と経過するに従って、一人ひとりの購入総額が、カレンダーに記録されていく。
その結果、LTVが正確に算出できるわけだ。
このLTVから、「平均より半年間の購入額が減っている」という問題を見つけると、
原因を割り出すため、社員全員で1日会議することもあるという。
このようにマーケティング頭脳を持つ経営者は、どんな株主総会をしているのだろうか。
興味を引かれ、決算資料を読んでみたところ、どんなマーケティングの教科書よりも、分かりやすい解説があった。
ライバル会社にまねされるだろうと考えず、惜しげもなく、自社のマーケティング技術を公開していたのである。
マーケティングに興味のある学生や若手社員が、こうした先端の現場経験を積める企業で武者修行できれば、
商品開発、顧客満足、マネジメント、そして事業創出まで、経営目標を実現する技量が短期間で磨かれていくだろう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に活躍する一流人材は、
もはや一企業を超えて、養成する時代に入ったのではないだろうか。
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