組織を変える言葉の法則 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/10/31号

2022/11/7

あるグローバル企業から、「ムーブメントを起こす言葉の法則」というテーマで講演を依頼された。
正直、大衆を扇動する、魔法のような言葉をつくる法則はない。

だが組織を動かす目的であれば、言葉の法則はある。ポイントを3点に要約すれば次の通りだ。

1、「モビライザー」を動かす3つの視点を把握する。
2、その矛盾を超える、1つの「インサイト」を発見する。
3、組織内で新しい行動をする人が増えていくように「自然なプロセス」を設計する。

この3つに取り組むことで、組織は変えられる。それぞれ解説しよう。

まずは「モビライザー」を動かす視点だ。
書籍「隠れたキーマンを探せ!」に載った研究によると、組織には7タイプの異なる構成員がいるという。

なかでも行動の変革を推進するのは「ティーチャー(教育者)」「ゴー・ゲッター(推進者)」
「スケイプティク(懐疑者)」の3タイプ。総称して「モビライザー」と呼ぶ。

教育者は「未来」、推進者は「現在」、懐疑者は「過去」という異なる視点で動いているので、
ピンと来る言葉が違う。

教育者は、未来を拓くための「可能性」を表現する言葉に動機づけられ、
推進者は現在経験している問題や痛みの解消、すなわち「欲求」を満たす言葉に動機づけられる。
そして懐疑者は集団を守るために、過去からの「権威・実績」を表現する言葉によって動機づけられる。

ただ、興味を引くだけでは人々は行動変容を起こすまでには至らない。

「自分はなんて間違っていたのか!」と過去の常識を木っ端みじんにされるような衝撃的事実、
すなわちインサイトを伝えることが必要だ。

その一例が、ゼロックス社の「77%」を前面に打ち出した広告である。

カラープリンターを学校に売り込む際、当初は性能やコスト優位性などを広告でうたっていた。
しかし、調査でわかったのは、現場の先生の悩みは、集中力がなく落ち着きがない生徒だった。

そこで、「色を授業中に加えることで、77%の生徒の集中力が改善した」という論文を元に広告を打ったところ、
それがインサイトとなり、カラープリンターが大ヒットしたのである。

ムーブメントを起こすには、第3のポイント「新しい行動を普及するプロセス」を設計する必要もある。
そのシンプルな道筋は「2人から始めること」だ。

ペンシルベニア大学のダモン・セントラ博士によると、優秀かつ影響力ある人でも、
組織で行動変容を起こそうとすると現状維持派に潰されてしまう。

それを回避するには、まずは小さなクラスターで今までの行動を変えることが重要だ。
必要な最小単位は2人。

2人が新しい振る舞いをしていると周辺に伝播(でんぱ)し、4人に1人へと広がった時、
一気に全体の振る舞いが変わるという。

「日本は変わらない」。そんな悲観的な声ばかりが耳に届くけれど、
言葉の選択と、それを広げるプロセスさえ設計すれば、変化は始められる。

気の合う2人が楽しく語り合うことから、変革を始めていきたい。

 

 

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