iPhone新機種を公開 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」9/24号
2018/10/7
9月12日、米アップルが、スマートフォン(スマホ)「iPhone」の新機種を公開した。
従来の6や7など数字によるバージョン表記が終了。
XS、XRなど、Xを中心となるネーミングを打ち出してきた。
実は7年前、iPhoneXという名を予測した本がある。
「2022 これから10年飛躍する人の条件」。
何を隠そう、私の著書だ。
12年刊行の本で私は、「16年半ば以降、iPhoneはコンセプトを大幅に変えられず、
iPhoneXというネーミングをつけた多機能・高性能機種を出し続けるだけで終わるかもしれない」
「Xは衰退の象徴」と述べた。
「『iBrain』といった画期的な商品が出てくる可能性もある。
それを見極めるのが15~16年頃」とも記した。
「神田さん。iBrainなんて革新的な商品はなく、予測は外れましたね」。
私もそう思っていたが、今回の発表で予測は正しいと確信した。
同時発表された新型アップルウォッチが、同社をけん引する革新的な商品になりそうだからだ。
注目は心電図を計測する新機能。
心拍数の記録という従来のレベルを超えた米食品医薬品局(FDA)認可の心電図でおそらく、
心電図を医療従事者が目視で確認するのではなく、データを数理処理し、心臓の状態を診断する。
私はこの技術に以前から注目していた。
心臓病は日本人で2番目に多い死因の上、高精度な診断にはカテーテルを挿入する検査が必要だからだ。
心臓まで管を通すので費用も時間もかかり、体の負担も大きい。
しかし米国ベンチャー企業がアルゴリズムを開発。
心電図のデータを心臓病患者のデータベースと照合することで極めて高精度で診断できるようになった。
私はこの企業がアップルから引き合いを受けていたことを数年前から知っていたので、ピンときたのである。
まだ学術論文で検証されていないが、関係者によれば、この診断技術は統計処理なので、
心臓病に限らず、すべての病気の診断に応用できることが十分期待できるという。
インパクトは紛れもなく大きい。
高度な専門頭脳が自分の腕につけられたようなものだからだ。
まさに、外部化された脳、iBrainである。
中国のスマホメーカーは新製品を見て胸をなでおろしたというが、
この技術を突破口にアップルは、医療サービスを中心とした「アップルホスピタル」のような会社に、
10年後に生まれ変わっても不思議じゃない。
間違いなく今以上の成長を遂げるだろう。
ネーミングも、007の音楽に乗って会場にかけつけるプレゼンのオープニング映像もダサいと、
アップルは発表後に多くのファンに失望されたといわれる。
しかしビジネスモデル変革の観点から見ると、そのダサさすら意図的だと推測できる。
狙いは、全世界が高齢化する中、流行最先端の人のぜいたく品でなく、
必需品としてのブランドを構築すること。
ティム・クックの周到な戦略なのである。
だから、私は、再び予測しよう。
ティム・クックの本領発揮が始まった。
アップルの新たな成長の幕は切って落とされた、と。