進化する営業コール分析 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」23/7/17号

2023/7/24

新型コロナウイルスの大流行は、ビジネスに新しく多様な動向を数多く生み出した。
一例が「営業コールの分析」だ。

マシュー・ディクソン著の「JOLT Effect」によれば、
zoomやTeamsで対応した250万件の営業コールをテキスト化して機械学習で分析したところ、
驚くべき発見があった。

「今まで通用したセールス手法が効果を発揮しない」という事実だ。

たとえば、お客様に「現状維持をしていると今より状況が悪化する」と言うのは営業トークの定番だ。
ただ、現状維持バイアスを取り除いても、56%は成約しないという結果が出た。

コロナ禍でストレスが蓄積し「今はこれ以上の変化はしたくない」と考える人が増えているというわけだ。

そういう状況でも「あなたの場合、AかBが良い」と選択肢を減らし決断に至るプロセスを簡素化したり、
客単価の抑制や保証などによって購入リスクを取り除いたりすると、売り上げは120%向上することが分かった。

営業コールの分析は、顧客との関係性を「見える化」する新しい試みである。

人工知能(AI)の進化とデジタルトランスフォーメーション(DX)により、
ちょっとした言葉のニュアンスを分析すると、顧客の状況を把握し個別対応できるようになったのである。

ちょっとした言葉のニュアンスからニーズや背景をつかむ上で、顧客の声の重要性は長らく認識されてきた。

CoCo壱番屋創業者の宗次德二氏は
「毎月3万通のアンケートはがき全てに目を通す。厳しい指摘はラブレター」と語っている。

スーパーホテル創業者である山本梁介氏も「予約が前年割れしたら、まずアンケートの顧客満足をチェックする。
そして対応・改善を指示すると、ほとんどの場合、翌月には予約数が回復する」と述べている。

顧客の行動をデータ化するようになってから、
一部の企業はデータだけを頼るようになり、生きた顧客の声との接触は失われた。

しかし、今では生成AIの導入により、データさえあれば一瞬で顧客のペルソナを作り出せる。

社員全体が顧客をイメージしながら、同じように対応できるようになる。
ひいては、大切な友人として対応する組織文化を構築できる可能性が広がってきたというわけだ。

投資家のウォーレン・バフェット氏は、多くの成功者を見て投資哲学を確立している。
本年度の株主総会で次のように話した。

「大成功するビジネスのほとんどは、ビジネス自体は誰にでも始められるものだが、
顧客を大いに喜ばせている。経営者1人で顧客を喜ばせ続けることは難しい。
必要なのは、顧客満足を経営者自身だけでなく、社員を通じて実現させることだ

従来のマーケティング手法では顧客満足度の向上が限られていた。
デジタル技術の進化で、顧客のニーズに敏感に対応して顧客との関係性を深められるだろう。

マーケティング革命がますます進展し、多くの企業が顧客との関係性を「見える化」し、
大切な友人として対応する企業文化ができることを期待している。

 
 

実学M.B.A.
いまなら初月無料でお試しいただけます。
詳しくはこちら



MAIL MAGAZINE・SNS
メルマガ・ソーシャルメディア


メルマガ一覧を見る