新しいファッションの創り方 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/5/27号
2024/6/3
未来を予測する上でファッションは重要な要素である。
従来は数年後にトレンドになる色やスタイルがファッションに先駆けて現れていたが、最近は新たな変化が起こっている。
数年後の社会に受け入れられるマーケティング戦略が、ファッション業界に先駆けて現れているのである。
これまでファッションのマーケティング戦略はハイブランドを頂点とするピラミッド構造で行われていた。
まずハイブランドのデザイナーが年2回のコレクションで新スタイルを提案すると、
ファッション誌が取り上げ、その服を着たタレントがテレビに露出する。
VIP顧客向けに受注会が開催された後、数カ月後に服が店に並び、一般客がこぞって買い求める――。
つまり「ブランド×タレント×マスメディア」による三位一体の仕組みがトレンドを創り出していた。
ところがコロナ後は、全く異なる売り方=需要創造パターンが現れはじめている。
「インフルエンサー×推し×SNS」の三位一体がトレンドを創る市場へと変わったのである。
その象徴的存在が、アパレルブランド「ADRER」を率いる犬飼京氏だ。
彼は元々コーディネート動画でインフルエンサーの地位を確立した後、
自分のブランドを立ち上げ、27歳で年商30億円をあげている。
その方法が、伝統的なビジネスの成長プロセスとは一線を画していた。
まずは自社のサイトやEC(電子商取引)ショップを持たず、ZOZOとSNSだけで商品を売る。
大きな組織も持たない。
犬飼氏自身が社長、デザイナー、インフルエンサー、モデル、マーケッター、販売スタッフである。
その結果、ADRERは3つの破壊的イノベーションを起こした。
1つは「価格破壊」だ。
同社のジーンズは6000円台が中心。しかし私も試したが、品質は高級ブランドと遜色ない。
知り合いの欧米の一流デザイナーも私が着ていた服を高く評価していた。
2つ目は「販促サイクル破壊」。
ADRERは早くて2週間ごとに新作を発売する。
これによりZOZOのランキング上位を維持しているので、継続的に商品が売れる。
3つ目は「マーケティングの破壊」だ。
一般的なマーケッターと異なり、ADRERはSNSに広告を出さない。
代わりに「推し」という熱狂的なファンの関係性を強化している。
推しは商品を買うとコーディネート画像や動画をSNSにアップして拡散する。
推しのコミュニティがブランドを押し上げているのだ。
近年は、インフルエンサーが急増し、彼らが立ち上げたブランド製品があふれている。
ADRERが彼らと違うのは、単にブランドを立ち上げるだけでなく、
熱狂的な「推し」を創り出し、消費者との強固な関係を築いているからだ。
インフルエンサーと「推し」のダイナミックな相互作用により、ブランドはただの商品を超えた、
感動を共有するプラットフォームへと進化する。
これは単なるビジネスモデルの変革ではなく、文化の変革そのもの。
そこに、大きな可能性が広がりはじめている。
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